電力ガール!
第8話 電力ガールのお仕事・前編
エヴァンゼリンが初めて所属したのは今居る営業所だ。
だからエヴァンゼリンの指導はこの技術課にいる先輩達になる。
新人の時の(今も新人だけど)失敗を皆が知っているのは、やや恥ずかしい。
エヴァンゼリンの同期たちは皆特例の非常招集を受けて訓練所に入り、電柱修繕の技術のみを特訓してすぐに配属された経緯がある。
だから細かな知識は配属されてから覚えることとなったので、エヴァンゼリンは初めは電柱の高ささえ知らなかった。
(皆同じ高さだと思っていました)
電柱は建てられた時期と場所によって異なり、低ければ7メートル、高ければ11メートルと4メートルもの差が出る。電柱の設計をするようになって知ったことであったし、
「お前なんで線路って呼ぶんですかって聞いてたよな」
よくからかわれるけど、知らなかったんだからしょうがないじゃない。
○○線とか、××線と地名をつけて呼ばれる線路。電線の道だから線路なのだ。普通の地名だけじゃなく、今は無い地名の線路もある。
阿久津機関場線なんて、絶対古い。
(機関場なんてもう無いもの)
今日もまたからかわれていると、突然パトランプが鳴る。通報のあるときに鳴るものだ。
「××線にて火災発生の連絡有り。至急対応願います。」
技術課に緊張が走る。
「ウベ!みんなを呼んでこい!」
課長の一言で彼女は走り出す。
みんなってのは喫煙組だ。
(ここの職場は喫煙率が高い)
喫煙所で、警報が入ったことを伝えると全員、喫いかけのタバコを灰皿に押し付けて消火する。
足早に課に戻ると、副長がすでにキーボックスから車輌の鍵を取り出して並べていた。
「火災の規模が大きい。場所はここから近いが被害の恐れがある。」
課長の言葉に年長の野川さんが、
「場所はどこですか?」
課長は険しい顔をする。
「松森変電所の近くだ」
松森変電所はこの営業所の管轄区の中で最大規模の電力施設だ。
山肌に接していて鋼鉄の森林を思わせる威容を誇る。
ここで変電所の事故があれば、S市の北部殆どが停電になる。大規模停電だ。
大震災以降、区役所や病院などの重要施設では自家発電の整備が進んでいるが、そう多くはない。
「変電所のどちら側から火災が起きているのですか?」
これは西脇さんだ。物静かで落ち着いた35歳。
「ショッピングタウン側だ。」
「変電所のすぐそばじゃないですか!」
皆がざわつく。
昔は変電所の側は田んぼばかりで何もなかったそうだが、ここ十年の間にショッピングタウンとそれに連なる有名店の出店、そして住宅地へと変貌を遂げている。
使える土地をどんどん広げたから、いつのまにか変電所のそばまで建物が建つこととなってしまった。
「西脇と八角は高所作業車で出ろ。高橋と野川さんはランサーで、木本副長はヤマさんと一号者で出てくれ。後の者は待機。巡視に出てる者にも連絡だけ頼むぞ」
つづく
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