第6話 八角さんの恋 中編
エヴァンゼリンは反省していた。
余計な一言で八角さんに衝撃を与えてしまったのだ。
マイルドに言ってみたが、はっきり言って傷付けてしまった。
幸い衝撃がでかすぎて、八角さんのエヴァンゼリンへの怒りはまだわいてこないようだが、時間の問題かもしれない。
「なんでそんな事言っちゃうのよ〜」
はるかも呆れている。
「いや、ちょっとムカついて」
「キリさんが煙草嫌いっていうのは本当なの?」
「それはホント。本人に聞いた」
(この会社タバコ吸う人多いですよね〜?って話しかけて聞き出した)
「八角さん、どうなったの?」
「あれから1時間経つけど、まだ動かない」
「ええ〜」
はるかの推測によると、八角さんが動かない理由は、
1、恋心がバレている事の動揺。
2、キリさんが煙草が嫌いという事実。
(八角さんはヘビースモーカーだ)
3、キリさんにタバコ臭で迷惑をかけていたかもしれないという恥ずかしさ。
「いやぁ、唐突に言ったからなぁ。ビビって固まってんじゃないかな?」
「それって後が怖くない?」
「怖い……かも」
人のデリケートな部分を笑ってはいけない。エヴァンゼリンは予想外に八角さんの弱いとこを突いてしまったらしい。
それからというもの、八角さんはエヴァンゼリンの前では前よりも口を開かなくなった。
技術課にいる時もむっつりと黙って仕事をしている。
大抵は外に出ているのでそれほど顔を合わせることは無いが、こちらから挨拶する位だ。(無論返事は無い)
しばらく経った、ある日の午後3時のラジオ体操の時間、アキヒコさんがエヴァンゼリンに声をかけてきた。
「知ってる?あの八角さんが禁煙してるんだって」
(えええっ⁈)
目が点になる。
あの八角さんが。
あのヘビースモーカーの八角さんが。
1日に何箱も煙草を吸う八角さんが。
「え〜〜?禁煙?あの八角さんが?」
はるかも驚く。
「いやぁ、恋のチカラって偉大よね」
とりあえず、エヴァンゼリンはそちらの事で安心する。
八角さんは前向きに取り組もうとしているのだ。
「後は私がいつ八角さんに謝るかだなぁ…」
八角さんの禁煙が2週間続いた頃、エヴァンゼリンは一階の廊下で楽しげに立ち話をする八角さんとキリさんを見かけた。
(うまくいってんじゃん)
この点は本当に良かった。そうでなかったらどうなっていたかわからない。
そんな折、突然、下請け会社エクサの規模縮小が発表された。
つづく
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