第4話 電力《でんりょく》祭
T電力では各営業所ごとにお祭りをする。電力会社のアピールと社員の家族へのサービスを兼ねたお祭りがある。
家族へのサービスとはいうが、要はいつも忙しい社員の子どもたちの会社訪問なのだ。子どもたちによる、お仕事参観は人気で大抵の家族が参加する。
営業所に併設された広場に高所作業車を出して作業ケージに子どもたちを乗せて上げ下げしたり、出店を呼んだり、T電力キャラクターのマカピー(ぬいぐるみ)が来たりと賑わいを見せる。
「やぁ、ガキどもが来たな」
定年間近の課長はこういう時は表情を和らげる。(にこやかなお獅子だ)
技術課は三階にあり、お祭りをしている広場がよく見える。小さな子ども達が集まっている。やがて引率の社員に連れられて社屋内の見学に来るのだ。
技術課の中にも今日見学来る子を待つ人も何人かいる。そのメンバーは見学が終わるまで巡視に出ない。
「みんなしっかりしろよ!」
課長のゲキが飛んだ。
廊下から賑やかな声が聞こえて来る。
子ども達が来たみたいだ。
西脇さん、幸田さん、梨田副長が自分たちの子どもが来るというので身構える。(ちょっと緊張してる?)
エヴァンゼリンもひょいと廊下をのぞいてみる。
と、先頭の社員とは別に子ども達に混ざって、異様に背の高い人物が歩いて来る。どうやら見学者のようだ。
「ん?」
エヴァンゼリンは目を細めてその人物を見る。
見覚えがある。
(嫌な予感)
その人物は子ども達に混ざって入ってきた。
スラリと高い身長は課内の誰よりも高い。シルバーグレイの髪は綺麗になでつけてあり、白皙の頬に鳶色の瞳は彼が日本人でない事を知らしめている。
「パ、パパ⁈」
「やぁ、エヴァ。君の仕事ぶりを見に来たよ」
(な、なんで来たー⁈)
目が点になる彼女を放って、パパは周りの人たちに挨拶している。子どもはお父さんの元へ行ったり、アキヒコさんにまとわりついている。(子どもに好かれるタイプだ)
「デカイなお前の父ちゃん」
アキヒコさんの同期の公平さんがそういう。
聞こえたのか、パパが振り返る。
「セバスティアン・ランカンプと同じ身長デス」
公平さんが「誰?」という目で見て来る。エヴァンゼリンはぐぅっと恥ずかしさを堪えて、
「ド、ドイツのサッカー選手です」
(ちなみに191センチ)
公平さんがぷっと吹き出す。
「授業参観だな」
(くっそー!笑われた!)
エヴァンゼリンは顔を真っ赤にしている。二十歳を過ぎて職場に親が来るとか普通無いから!
(実家に帰った時、ガッツリ怒るからね!)
1ヶ月後、里帰りしたエヴァンゼリンが見たものは、会社見学でもらえるマカピーのノートと蛍光ペンが額縁に入れて飾られている光景であった。
つづく
この作品はフィクションです。
実際の団体及び人物と一切関わりありません。似ていても非なるものです。
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