第10話 電力ガールのお仕事・後編
火勢が収まらないとの続報に課内の緊張が高まる。
「現場に出る」
課長が立ち上がった。
直接火災現場の様子を見て判断するのだ。
そのまま課長は待機している皆を見ると、エヴァンゼリンとアキヒコさんを指した。
「お前らも来い」
「は、はいっ!」
2人とも同時に返事する。
火事場の現場に行くのはエヴァンゼリンは初めてだった。
手早く呼気検査をしてヘルメットを持つ。エレベーターで3階から3人で地下駐車場へ降りる。
地下駐車場からランサーに乗り込み出発する。運転手はアキヒコさん。助手席にはエヴァンゼリン。後部座席にどーんと構えるように座るのが課長だ。
「お前らこの駐車場から坂道登って出動する時、まだワクワクするか?」
エヴァンゼリンはワクワクするが、怒られそうで黙っていた。
「俺はな、まだワクワクすんだ。ドキドキといってもいいな。もう定年だってのにな」
ああ、いいんだ。
子どもみたいだと隠していたが、それでいいんだ。
課長の顔を見ると目が合った。
ニヤリとされる。
「準備よし!出しますね!」
アキヒコさんがアクセルを踏み込んだ。
現場には十分足らずで到着した。
「まずいな」
見るなり課長が言う。
すぐ近くに車をつける事は出来なかったが、煙とプラスチックが燃える臭いが辺りに立ち込めていて、その火事の規模が大きいことを物語る。
消防車と救急車、それに警察車両の台数も多い。
そこへ先に出ていた木本副長が来る。
「課長、警察と消防それぞれから断線の要請でました」
「わかった。作業に着くぞ。東側は君らがやれ。俺とコイツらは北側をやる」
「了解」
副長に指示すると課長はこちらを向いた。
「柱上断線作業だ。わかるな?」
「はい!」
少し声が震える。
火災現場の周辺の電線を前もって切る作業だ。既に切れているものも危険である。
周りでは放水作業が続いているので、作業員が感電しないよう停電させるのだ。
「この仕事をしてたらいつかはやるこった。気をつけろよ」
受け持つのは住宅側だ。
まだショッピングタウンの火は届いていないが、危険な事に変わりはない。
「時間がないから1人でやれ」
エヴァンゼリンは頷く。
2人でそれぞれの電柱や引き込み線に取り付く。(アキヒコさんは住人の方々に説明に行く)
作業は早い。
傷が付いていない電線を切るのは抵抗があるが、今はそんなこと言っていられない。
アキヒコさんが戻って来て下で待機してくれる。一本の電柱が終わると次へ移動だ。二本目に登って変電所側を見ると、先輩達が次々と断線作業しているのが見えた。あちらは煙も火勢も強い。だが、心配している場合ではない。目の前のことに集中しなくては。
断線作業は程なく終わったが、火災自体が沈静化したのはだいぶ経ってからであった。
消防の方から連絡があり、今度は停電復旧作業に入る。
「やれやれ、今度は復旧か」
「まぁ変電所に移らなかったからいいじゃないですか」
「それに怪我人だけで済んだみたいですよ」
とはいえショッピングタウンは大打撃だろう。広い敷地の半分以上が燃えてしまった。
「皆それぞれやる事をやればいい」
課長がそう言う。
「消防は消防の仕事、警察は警察の仕事、店の人は店の仕事。俺たちは俺たちの仕事をするって事だ」
私達の仕事。
自信を持って出来るこの仕事。
少しワクワクして、誇れる仕事。
エヴァンゼリンは持ち前の怪力でハシゴを担ぎ上げた。
「行ってきます!!」
完
お読みいただきありがとうございました。拙い文章で恥ずかしい限りです。
目標の10話完結が出来て良かったと思ってます。内容はまだまだ練れる部分が多かったと反省しています。
ああ、恥ずかしい。
機会がありましたらまた読んでください。
この作品はフィクションです。
実際の団体及び人物と一切関わりありません。似ていても非なるものです。
電力《でんりょく》ガール! 青樹春夜(あおきはるや:旧halhal- @halhal-02
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