第2話 停電の理由
「ウベ、巡視行って来い」
「ウベじゃなくて、正確にはウーベと発音してください、課長?」
「うるせぇ、名札がそうなってんだろうが」
はぁい、と間の抜けた返事をしてまた怒られる。
課長は怒ると怖い。もう直ぐ定年の課長は技術畑ひとすじの職人で、もちろんこの営業所では並ぶもののないベテランだ。ただ白髪の硬い髪質に太い眉、ドッシリとした鼻に、シワの寄った日焼けした顔。
見る度にエヴァンゼリン・トール・ウベは獅子舞のお獅子を思い出す。
それが怒鳴ってくるのだからやはり怖い。
「空いているのは…なんだアキヒコしかいねぇのか」
皆朝から出払っていて、技術課に残っていたのは三浦秋彦(通称アキヒコ)だけであった。
もっさり草食系メガネ男子。
しかし身長は178センチ。
(やはり現場作業員は身長で採用しているのか?)
エヴァンゼリンよりも2年先輩だ。
だが頼りなさはピカイチ。
2人はビタミンイエローのワゴンに乗ると、エヴァンゼリンの運転で発進する。
巡視は経験を積めば1人でもいい。
中堅どころは皆そうしているが、例外もある。単純に作業内容が1人では出来ないものがある為だ。
ほぼ目視による確認が主だが、時々無線が入る。技術課の直ぐ隣に管轄地域を管理する通信センターがある。無線連絡はここから技術課に来て、課長や副長から連絡が入る。(全員出動の際はセンター員から連絡が来るけど)
エヴァンゼリンとアキヒコ組は大松沢線を巡視していた。
そこへ無線連絡が入る。
「あー、大松沢線支線にて停電確認。至急向かわれたし」
「了解、三号車向かいます」
タブレットに停電箇所の情報が入る。
昔は支線番号と電柱番号で連絡していたらしいが、今は便利だ。
(課長クラスになると番号を言った方が早い。タブレット使えないし)
「少し山に入るなぁ」
「何が原因ですかねー?」
そう言いながらちょっとテンションが上がる。(仕事だ!)
現場に着くと直ぐに原因が、わかった。電線に焦げたアオダイショウがぶら下がっている。
「あれですね。取ってきます」
「待て待て。現状写真取るのが先。」
そう言ってデジカメを渡される。
(エヴァンゼリンはタブレットで撮ってそのまま送れば良いと思ってる。けど半分お役所仕事だからね。紙の資料に残すのさ)
焦死したヘビの死骸をカメラに収めると、次は電柱に登る。簡易ハシゴを電柱にかけると、後は電柱に付いている足場を登る。
電柱の近くで焼けたので、ゴミバサミで事足りる。
ショートして停電になっているからそれ程怖くない。
ヘビを落とすと、復旧作業に入る。
程なく通電し、電柱を降りて終了。
アキヒコさんがタブレットで復旧終了を上げる。同時に技術課にも報告。
「後は巡視して戻れってさ」
「ヘビはどうします?」
「…半生焼け…」
そうつぶやくと、アキヒコさんの顔色が悪くなる。(あ、こういうのダメなのね)
「げ、現状物だから、えーと?伐採樹木場合は持ち帰りか地主に、か、確認するけど、地主もいないし、持ち帰り?」
あわあわするアキヒコさんを冷ややかな目で見ると、エヴァンゼリンはため息を1つついてワゴンから紙袋を持ってきた。
差し入れオヤツの入っていた丈夫でかわいい袋だ。
ゴミバサミでソレを摘むと、紙袋に入れる。ワゴンの荷物置き場の隅に置くと、エヴァンゼリンは運転席に座る。
「帰りますよ!アキヒコさん!」
営業所に戻ると、停電状況を報告。
最後にアキヒコさんが、
「あのぅ、課長、ヘビはどうしたら…?」
課長の太眉がぴくりと上がる。
「そんなもん捨てろ」
「はいぃ!」
「と、言うわけだから捨てて来て」
「…はい」
アキヒコさんは先輩だから、こういう時は言う事を聞かないといけない。
エヴァンゼリンは通用口側のゴミ捨て場にそれを捨てた。
数時間後、掃除のおばさんがゴミ捨て場で可愛い紙袋を見つける。
どうやらお菓子が入っていたみたいだ。外袋もそんなに痛んで無い。
もしかして食べないで捨てちゃったのかしら?いや、拾い食いはハシタナイ。でも、ほら、不審物はチェックしないとね。
おばさんは袋を開けた。
(ギャァァァーーーー!)
次の日、朝からエヴァンゼリンとアキヒコさんは並んで課長の説教を受ける羽目になった。
「営業所中に響き渡る悲鳴だったぞ。今度から廃棄には気を使うようにしろ」
アキヒコさんが元気に答える。
「今度から『ヘビ』と書きます!」
エヴァンゼリンは思わず目をつぶる。
(やっちまったなアキヒコさん)
今度は課長の怒号が響いた。
「そういう事を言ってんじゃねぇ!」
つづく?
この作品はフィクションです。
実際の団体及び人物と一切関わりありません。似ていても非なるものです。
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