八話 自白

 



「岩崎が吐いたぞ」


「え?」


 渡辺は言葉の意味が飲み込めない様子だった。


「一部始終を見ていたそうだ。犯行の」


「エッ! ……そんな筈は」


(! ……そんな筈は?)


 簡単に落ちた。渡辺は白状したも同然だった。


「そんな筈はないと言うのか? どうしてだ」


「……鼾を掻いてたし……」


「ぐっすり眠っていると思ったのか?」


「……はい」


 途端、渡辺は青菜に塩のようになった。


「どうして、殺したんだ?」


「……姐さんのことが好きでした」


(! ……)


「社長が死ねば、姐さんと一緒になれると思い――」


「原口の女房と関係があるのか!」


 努は、怒ったような口吻こうふんで渡辺を睨んだ。


「いいえ。俺の片想いです」


 その言葉に、努はホッとすると少年のような安堵の表情を浮かべた。


「たかが片想いで、原口を殺したのか?」


「姐さんに自分の気持ちを打ち明けて、もし、そのことが社長に知られたら殺されるかもしれない。そう思うと、姐さんを自分の物にしたくても、告白できなかった。社長さえ居なければ天国なのに。そう思うと、社長が邪魔で仕方なかった。

 そんな時、チャンスが訪れた。あの日は、朝から土砂降りだった。今夜しかない。腹を決めると、予定していた段取りを復習しました。夕食後に、事務所のソファーでテレビを観ながら酒を飲むのが、社長の日課でした。そして、酔うとソファーで寝る癖も知ってました。

 ……布団の中でパジャマの釦を外すと、岩崎の兄貴が寝付いた頃を見計らって部屋を出ました。事務所のドアを開けると、案の定、テレビを点けっ放しで社長が鼾を掻いていました。あらかじめパジャマのポケットに忍ばせておいたゴム手袋を嵌めると、紐をポケットから出して、仰向けになった社長の首に巻き、思い切り絞めました。社長は首に手をやると、足をバタバタさせて、うーっ! と唸り声を上げました。が、雨音が何もかも掻き消してくれてる筈だ。そう信じて、俺は躊躇ちゅうちょなく更に力を込めました。

 社長が動かなくなったのを確認すると、パジャマと下着を脱ぎ、真っ裸になると、庭側の窓を開け、庭の隅に用意しておいたスコップで穴を掘りました。社長を引き摺って埋めた後、シャワーで体を洗うと、下着とパジャマを着て、浴室までの廊下と事務所の床を拭きました――」


「殺害方法は自分で考えたのか?」


「……いいえ。……姐さんから」


(……やっぱりか)


「原口の女房も共犯か?」


「いいえ! 姐さんは関係ありません。姐さんから聞いた殺人事件の手口を真似ただけです」


「殺人事件?」


 奈津が二十年前の殺人事件の話をしたのだろう。だが、真犯人でなければ手口は知り得ない。益々、奈津への疑惑が深まった。

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