蚕殖

作者 木古おうみ

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★★★ Excellent!!!

山奥の村に蚕について調べに来た学者が、養蚕業の若者から話を聞いている内に……というお話。
これを映像で見る勇気が出ないほど、生理的嫌悪を催す描写も抜群なのですが、それだけでなく〈月も出てなくて、夏だってのに冬みたいに枯れた桑の木の枝が、障子に蜘蛛の巣みたいな影を落とす夜だった。〉(←この描写が一番好きでした)みたいな美しい情景描写も相まって奇妙な味わいになっています。明確な答えが出る物語ではないけれど想像はできる作品になっていて、その掻き立てられた想像にぞっとしてしまいました。

★★★ Excellent!!!

養蚕業を営む男性の語りで話が進みますが世界観に入り込みやすいです。
山奥、養蚕業、納屋、井戸。
昔、合掌造りの家屋の養蚕業の見学をしたことがある自分には、そのワードで薄暗い日本家屋が想像できました。
そして、想像した風景の雰囲気を引き立てる男性の口調と台詞回し、お見事です。

学者の気分になって読まれると鳥肌が立つこと請け合いです。ぜひとも、ベテランの俳優さんか、有本さんなど渋い男性の声優さんの声で聞きたい(読みたい)ホラーです。

★★★ Excellent!!!

恐ろしいまでの独白の表現力!完全なる1人のセリフだけで最後まで完璧なホラーを表現しきっていることに驚嘆する。ナレーションも説明も無し。
養蚕業の経営者が、訪ねてきた学者に家の歴史を語って聞かせる話だが、その語り口調のリアリティと言ったら、本当にこうやって喋る叔父さんがどっかにいるのではないかと思わせられる。

小説における様々な文章形式に当てはめると、これは対話体でありながら独白体に近い形式となっている。語り部の形式を損なわず、徐々に背筋の凍るようなホラーが忍び寄ってくる世界観を作り出せるのは、カクヨムでも唯一無二の存在であろう。

私は以前、たまたまこの作者の小説を見かけてレビューを書いた時、プロレタリア文学の文体模写かと思って絶賛したが、実はこの作者オリジナルの持ち味だったのだ。
その持ち味を活かして書かれた小説なら、私は作者名を見なくてもこの人が書いたと言い当てられるだろう。そんな人が果たして何人いるだろうか。
こんなレベルの物を連発して排出できる人間が素人である筈がないと思うのだが。

★★ Very Good!!

 釣りの餌に蚕の蛹がある。例外もあるが、主に淡水魚を釣る時に使う。人間にとっても食用となる。なお釣り餌としては単にサナギという。
 そんな蚕は戦後になってからとんと見られなくなった。山奥の民家で、たまに桑を植えてあるのを眺めるくらいだ。
 本作はほとんど独白で進むが、聞き手が明確かつ物理的に存在するのが面白い。読者からすると、語り手に耳を傾けつつ聞き手にもちらちら目を向けてしまう。
 そしていつの間にか、サナギを餌に釣られた魚の心境に至る。

★★★ Excellent!!!

《蚕》とは民俗学に密接した神の虫です。
東北では《おしらさま》ともいわれ、昔から信仰されています。信仰を始めると生涯拝み続けなければならず、信仰をやめたり祀りかたがそまつになったりすると、一族に祟りが及ぶのだとか。
富をもたらす有難いものでありながら恐ろしい祟り神でもある《蚕》…
人間は蚕を飼育しているつもりでいますが、実際は蚕を飼わされている……蚕に飼育されているのは人間のほうだったり……するのかもしれません。
じっとりとした手触りの民俗調怪奇小説、想像を膨らませながら是非に御賞味下さいませ