空に焦がれた魔法使い(7)

 その後、【ジュアン】は二度と現れなかったし、ジュアンが彼を思い出すこともなかった。古いアルバムの写真や手紙、召集令状も、やはり戻ってこなかった。ジュアンはぱたりと青空の話をしなくなり、彼の過眠も、あれ以来すっかり治まった。

 これはパトリックだけが知る話だが、【ジュアン】は、兄弟の中に残る自身の記憶をも、持って行ってしまったらしかった。そうするしか手段がなかったのだろうが、命をかけて救ったジュアンの中で、彼は何者でもなくなってしまった。いなかったことになってしまった。あの一件がもたらした変化があったとすれば、ジュアンが目覚めたあの日以来、パトリックがジュアンに貰った小遣いはすべて、小さな花束に替わるようになったことくらいか。

 パトリックは今日も、【ジュアン】の痕跡を失ったあの部屋に花束を横たえ、窓の向こうの灰色の空を見上げていた。眩しい青空とともに消えていった彼の背中に、思いを馳せながら。


 大丈夫だよ。【ジョシュア】は元気にやってる。だからあんたも、心配しなくていいんだよ。――おやすみ、【ジュアン】。

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幻想短編集 ハシバ柾 @fall_magia

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