能力測定不能の魔法剣士
あざね
第一章
プロローグ
ボクはみんなから『能力測定不能の冒険者』と呼ばれていた。
その異名というのは、決してプラスな意味ではなくて。むしろ蔑称に他ならなかった。それというのも、冒険者になって一番最初に執り行われる――『測定の儀』
その新人冒険者の身体能力や、魔法能力などといったものを測定するプロセスのことだ。大体の新人はそこで出た結果をもとに、一人用のクエストに挑むか、パーティーの勧誘を受けるかなどをする。即戦力な新人ならば、それこそ引く手数多というやつだ。
『――え? それって、どういうことです?』
その儀式において、ボクは前代未聞の結果を叩き出した。
それというのも、冒頭で語った通り――。
『アルフレッド・アンソンさん。貴方の能力は微弱すぎるが故に、この水晶では【測定不能】です。身体能力も魔法能力も、何もかもが一般冒険者のレベルに達していません』
つまり、そういうことだった。
ボクの力はあまりにも弱すぎたのだ。
そのために、この『測定の儀』において使用する水晶は反応しなかった。
『え、それって。ボクは冒険者になれないんですか……?』
『いえ、大丈夫ですよ。冒険者の仕事というのは、なにも魔物討伐のみに限られたわけではありませんから。薬草採集も、立派なクエストです』
『は、はぁ……。そうですか』
おずおずと、試験官の女性に訊ねる。
すると淡々とした口調でそんな回答があった。
『それでは冒険者カードを発行いたしますので、お待ちください』
そして、手渡される冒険者の証。
記載されていたのは、見たこともない表示だった。
曰く【この者、能力測定不能につき……】という但し書き。
『は、はは……』
ボクはそれを受け取って、人込みから少し距離を取った。
なにやら小声でこちらを馬鹿にするような言葉も聞こえてきたが、その時には、それに対して反論する元気もなかった。乾いた笑いしか出ない。
憧れの冒険者になれたとはいえど、これではまるで意味がない。
そんな感じで、ボクはうな垂れながらギルドを後にするのであった。
◆◇◆
――その出来事から、五年の時が経過した。
ボクは毎日、薬草採集という低級クエストに励みながら、少しでも身体を強くしようと筋力トレーニングや、魔法学の研究に勤しんでいた。
ボロボロの借家に住んで、どうにかこうにか生活している。
そんな感じの日々だった。
「ふぅ……。今日はこれくらいにしておくか」
日課の腕立てを終えて、タオルで汗を拭いながらボクは呟く。
今日でちょうど十八歳になったボクは大人の仲間入りということで、珍しく街の酒場、そこにいる冒険者仲間に誘われていた。なんでも、肉を奢ってくれるとか。
生活費に苦心しているボクにとっては、とても嬉しい申し出だった。
「さて、それじゃ。酒場に行く準備を……ん?」
そして、汗だくの衣服を着替えて外に出た。その時だった。
同じくボロボロな隣の家から、一人の女の子が出てきたのである。腰まで伸びた、少しだけクセのある銀色の髪。白のワンピースに身を包んだ、細い身体つき。
顔立ちは驚くほどに端正だ。まるで、伝説の中に出てくる女神様のような、そんな神々しい印象を受ける。紅の瞳には、吸い込まれるような魅力があった。
「あ、初めまして」
「初めまして……」
思わず見惚れていると、挨拶をされる。
なんとか返事をしたのだが、どうにも生返事になってしまった。
昨日まで隣には誰も住んでいなかった。状況から察するに、今日から住むことになった、というところだろうか。でも、大家さんからは何も聞いてないけど……。
――まぁ、いいか。所詮はお隣さん、だ。
ボクはそこで思考を止めて、小さく会釈をするのだった。
それ以上でも、それ以下でもない関係。ボクは気持ちを切り替えて、酒場へと向かって歩を進める。後方でこちらを呼び止めるような、そんな声がした気がした。
だけど、ボクは止まることなくその場を後にするのだった。
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