第6話 戦いの終わりに見えたもの









 思考は冴え渡っている。

 反対に、身体は熱を上げている。

 世界すべてが圧倒的に遅く、ボクは圧倒的に速く。


「――――――――!」


 右から一体。左からは二体。

 数は増えているけれども、そんなの大した問題とは思えなかった。

 いま、ボクの中から湧き上がる力は、あらゆる障害を過去のものとする。膨れ上がる熱量と期待と、焦燥、それらの狭間でボクは剣を振るうのだ。


 ヒュドラの腹を裂き、首を斬り落とした。

 その一連の流れは、自分の中にある『理想の人』の物真似だ。

 それでも、今のボクにある力は際限なく『その人』の足跡を追っている。


「これで、最後だ――っ!!」


 そして、その道行は終わりを迎えた。

 最後の一体。ダンジョンの奥へと逃げ出そうとしたそいつ。

 その首を断つ生々しい感触を手に、確かに感じながら、魔素の霧を身にまとった。


「はぁっ……!」


 いつから呼吸を忘れていたのだろうか。

 ボクは直後に大きく、胸いっぱいに空気を吸い込み吐き出した。

 改めて自らの手を確認し、さっきまでのことが夢ではないことを噛みしめる。炎が収束した剣を鞘に仕舞い、カインさんたちがいるであろう方へと振り返った。

 彼らはこちらを各々に、違う表情で見つめている。


 そんな二人に、どんな声をかければ良いのか分からなくなって。

 ボクはひとまず手を振ろうとした――。


「――あ、れ?」


 その時だ。

 視界が空転し、歪み、暗転した。

 ダンジョン内での意識喪失から、ボクの記憶はしばらく途切れている。



◆◇◆



 そうして見たのは、ある日の夢だった。

 それはボクにとって悲しい日々の始まりであり、同時に――。


『生きて、いるのか――良かった。まだ――!』





 冒険者を志すキッカケとなったものだった。



 

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