第二章
第1話 記憶
その人は、ボクにとっての希望そのものだった。
まだ幼かった自分のことを、絶望の淵から救い出してくれた恩人。
燃え盛る故郷の町の瓦礫の下から、彼は微かなボクの声を拾ってくれた。それは誰もが奇跡的だったと語る出来事で、ほんの少しだけ語り草にもなったものだ。
『おじさんは、冒険者なんだよね……?』
まだまだ拙い口調で、ボクは彼に問いかけた。
すると恩人である冒険者は、静かに頷いて優しく頭を撫でてくれる。
その手はとても大きくて、力強くて、魔物に襲われた町を一人で救ったと。そんな信じられない話をされたとしても、信じざるを得ない存在感だった。
『ぼくも、冒険者になる! そして、おじさんみたいに――』
彼に憧れた。
それは必然とも云えた。
これこそが、ボクの生きる上での目標。そう――。
『いつか、大切な人を守れるような人になるんだ!』――と。
◆◇◆
目が覚めると、そこはギルドの処置室だった。
ずいぶんと懐かしい、夢の欠片を見ていた気がする。しかしそんな思い出に浸るよりも先に、ボクはあることを思い出すのだった。
「あ、そうだ! カインさん、それにエリムさんは!?」
眠りに落ちる前、最後に見た彼らの姿。
とりわけカインさんに至っては、満身創痍以外の何ものでもなかった。
ヒュドラの攻撃をまともに喰らったのだから、無事であるはずがない。そのことは、自分がヒュドラを倒した事実よりも先に、脳裏をよぎる問題だった。
大慌てで、簡素なベッドから跳び起きる。
すると視界の端に、一人の女性の姿が飛び込んでくるのだった。それは――。
「あ、エリムさん……!」
「おはようございます。アルフレッド様」
パーティーの美しき仲間こと、エリムさん。
彼女はボクのことを、上から下まで目視で確認すると一つ頷いた。
「どうやら。アルフレッド様は、どこも怪我がないようですね」
「あ、うん。なにがなんだか、まだ分からないんだけどね」
そして、そんなことを言う。
ボクは淡々としたそれを受けて、頬を掻いて間抜けた返事をした。だけども、すぐにエリムさんの言葉の一部に気が付いて、ハッとする。
「――って、エリムさん! カインさんは!?」
そう。彼女は、ボク『には』どこにも怪我がない、と言ったのだ。
つまるところそれは、カインさんの身には何かがあった。
そのことを示唆している。
「あの男性は、隣の部屋に――」
「ありがとう! ちょっと、行ってくる!!」
ボクはエリムさんの言葉を最後まで聞かずに、駆け出した。
なんだか、少しだけ胸騒ぎがする。
「カインさん……!」
大切な兄貴分であるカインさん。
彼の身に何もないことを願いながら、しかしどこかで焦りを抱く。
そして、思い知ることとなるのだった。その先にある、あまりにも残酷な現実を。ボクはその時まだ、それを受け止めるだけの心の準備ができていなかった。
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