第2話 初めてのダンジョン
「えっと、エリムさん。ボクとパーティーを組んで、どうするの? さっきはマグレで魔法が撃てたかもだけど、基本的に何の取り柄もない『雑草狩り』だよ?」
「そんなことはありません。アルフレッド様には、才を感じます」
「才って……ボク『能力測定不能』なんだけど」
「……? それが、どうかしたのですか?」
ところ変わって、オンボロなボクの家にて。
お隣さんということもあって、ひとまずはここで話し合うことになった。
カインさんも同席しているが会話には入ってこない。ベッドに腰を落ち着けて、頬杖をつきながらジト目でボクらの話を聞いていた。
「どうしたもこうしたも、ないでしょ? ボクは身体能力が高いわけじゃないし、かといって魔法能力も優れてるわけじゃない。いや、もしかしたら筋トレのお陰で、少しはマシになってるかもだけど――かといって、パーティーを組む相手としては、外れくじだよ」
――う。自分で言ってて、悲しくなってきた……。
だが、これは覆しようのない事実だ。酒場の出来事はなにかの間違いとして、ボクに戦闘能力の類は備わっていない。努力はしてきたけど、出来なかった。
魔法は理論で底上げしようとしたが、失敗した。
身体も筋トレで鍛え上げたものの、至って並み程度だ。
そんなボクに、彼女はいったい何を期待しているのだろうか。
それに疑問を持っていると、ここに至ってようやくカインさんが話に参加してきた。大きなため息をついてから、彼はこう口にする。
「……まぁ、ものは試しだ。駄目なら諦めてくれるだろ」
「いや。それは、確かにそうなんですけど……」
彼曰く、要するに一回ダメもとでパーティーを組んでみろ、ということ。
たしかにそうすれば、ボクのお荷物感が露呈する。そうなってくれたらエリムさんも、諦めてくれるだろう。しかし、それには大きな問題があった。
それは、彼女もまた『能力測定不能』であること。
忘れてるかもしれないが、彼女もまたボクと同じ――その、役立たずだ。
仮に魔物討伐のクエストを請け負うようなことになれば、お荷物が二つということになる。そんな二人がダンジョンに放り込まれて、生存できるだろうか。
「大丈夫だって、アル。一人、フリーな冒険者を忘れてないか?」
「……? フリーな、冒険者?」
頭を悩ませていると、カインさんがそんな意味深なことを口にした。
ポカンとして首を傾げていると、彼はニヤリと笑う。
そして、こう言うのだ。
「安心しろって! Sランク冒険者の俺が、お前らを引率してやる!」
胸に親指を立てて、自信満々に。
それを聞いて、安心した。
カインさんとパーティーを組むことは、ボクの夢の一つでもあったのだから。
◆◇◆
「でも、本当に良いんですか? ボクなんかと――」
「ダンジョンの中にきて、まだ言ってるのかよ。大丈夫だって!」
「あ、ありがとうございます!!」
場所は街の端から入ることができる、洞穴。通称ダンジョンだ。
深く進めば進むほどに魔物を生成するとされる魔素が濃くなっており、当然に出てくる魔物も強くなっていく。ボクら三人は、中階層――五階層まで進んでいた。
この辺りはおおよそ、中級冒険者が潜る位置だ。
無論だが、ボクはそもそもダンジョンに潜ったことがない。
街の外れで平和に、薬草を集めていたのだから。
「えっと、エリムさんは大丈夫?」
「大丈夫です、アルフレッド様。お気遣いいただきありがとうございます」
「え、あ……うん、そっか。それなら良いんだけど……」
念のために、魔素酔いをしていないか確認を取る。
すると案の定というか何というか、エリムさんはクールな表情をピクリともさせずに、そう感謝を述べるのだった。しかし、なぜに『様』を付けるのか……。
「あぁ、そう言えばアル。お前にコレを渡しておくからな」
「え――って、うわ! コレって……カインさんの!?」
「お古だけどな! 何もないよりはマシだろ」
カインさんから渡されたのは、一本の剣だった。
彼はお古だと言ったが、しっかり手入れのされているそれは、まるで新品同様。目立った傷もなくて、引き抜いてみたら反射してボクの顔が映った。
鈍い明かりが常時灯っているこのダンジョンの中において、それは鮮明な光であり、加えて憧れの対象から授けられたことが何よりも嬉しい。
「ありがとうございます! 大切にしますね!!」
「お、おう……ホントに、アルは――な」
「え? いま、なにか言いましたか?」
「な、なんでもねぇよ! 気にすんな!」
それを素直に言葉にすると、カインさんはなぜか頬を赤らめた。
ボクは首を傾げたが、彼が気にするなと言うのだから、気にしないことにする。それよりも問題としてあるのは、周囲を取り囲む――殺気だった。
「カインさん、これって……」
「ほう。アルも気付いたか――魔物のお出ましみたいだな」
ボクが小声で言うと、彼も緩んだ表情を引き締めた。
微かな気配を探った限りだと、数は三体ほどだろうか……?
「ここは五階層だからな。おそらくは、デイモンだろう」
「デイモンって、あの……?」
「おう、そうだな」
ボクはカインさんの肯定に震え上がった。
何故ならダンジョン初進出のボクにとって、デイモンはもちろん、もっと低階層にいるゴブリンでさえ文献の中にいる生物だったのだから。
まさか、それを目の当たりにする日がくるなんて、思いもしなかった。
しかしそう思っている間に――。
「おいでなすった! 構えろアル、エリム!」
それは、姿を現した。
大きな鉤爪のような手に、瞳孔の開いた真っ赤な瞳。
筋骨隆々な巨体に、背中には退化したと思われる中途半端な翼があった。
「――――これが、デイモン!」
紫の身体を揺らしながら現われたそいつの名を口にして、ボクは剣を構える。
薄暗闇から現れた――デイモン。
「…………!」
ボクは大きく息を呑む。
そしてこれが、ボクにとっての大きな一歩になるのだった。
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