ケとハレ

 芥川龍之介の作品に『ひょっとこ』がある。平吉なる酒好きな男が主人公で、酔うと下手くそだが愛嬌のある馬鹿踊りをする癖があった。ある日、ひょっとこの面をかぶって花見船の上でいつものように踊っていたら、卒中を起こしてそのまま亡くなってしまう。『平吉の一生(人の知っている)から、これらの嘘を除いたら、あとには何も残らないのに違いない』と、芥川は語った。
 本作の『おめでとう星人』は、現代に蘇った平吉が酒の代わりに『おめでとう』という言葉を自他に振る舞って酔わせていく話ではないだろうか。あくまで憎めない愛嬌者の平吉とは真反対に、『おめでとう星人』はドス黒い本性を隠している。それを、酩酊している時の自分が本性なのか素面の時がそうなのかと悩んでいた平吉と重ね合わせると、ネット社会独特のケとハレが浮かび上がる。