おめでとう星人

鈴木 千明

おめでとう!

 近頃、巷で噂になっている〝おめでとう星人〟をご存知だろうか。

「おめでとう!」

彼はハリのある声で祝いの言葉を放つ。日本人の男性で、年齢不詳。服装は、白地に多様な色と言語で『おめでとう』が書かれたスーツに、ケーキのような帽子と白のベネチアンマスク。毎日欠かさず何かを祝う動画を投稿しており、依頼をすれば祝いの席にも駆けつけてくれる。

「みーんなの笑顔が、僕の生きる糧だよ!」

おめでとう星人は出演料を取らない。動画に発生する広告収入も、寄付か、祝う相手や視聴者へのプレゼントに当てられている。テレビに出演した際にも、受け取ったギャラを公表し、その全てを視聴者プレゼントに当てた。

「『おめでとう』は誰にだってできる!みんなをハッピーにする魔法の言葉なのさ!」

彼の目的はなんなのか。猜疑心からか、はたまた嫉妬からか、詭弁のような批判や、彼を貶めんとする噂が立った。彼の身辺も、顔の見えない誰かによって調べ上げられた。嘘か誠か、妄想か現実か、虚言か真相か。無数の情報が放り出される中で、一部の〝顔なし〟たちは、あることに感づいた。

「僕は〝おめでとう星人〟!いつでもどこでも誰にでも、お祝いを届けるスペシャリストなんだ!」

どの情報も真実ではない、と。彼の素性は完璧に隠されていた。ほとんどが妄言の域を出ず、良くて推測に過ぎない。彼の正体を暴こうと躍起になっていた者の中には、『〝おめでとう星人〟は〝おめでとう星人〟であり、それ以上でもそれ以下でもない。』と、調査に明確な終止符を打った者もいた。彼は確かに実在するが、都市伝説に登場する異形の存在と似た扱いをされていた。ただ、彼が齎すのはではなく、である。


 インターネット上に設けられた〝おめでとう星人〟の正体を暴くための交流場も、賑わいを落としていた。しかし、ある投稿が話題を呼ぶこととなる。



【悲報】おめでとう星人の呪い発動


1:ID:1ADGjmpT9

星人さまのお面を取ろうとした不敬者が消された模様


2:ID:2EHKnquW1

>>1

どこのどいつや!ワイが祝ったる!


3:ID:1ADGjmpT9

>>2

さすが居残ってるだけあるな


4:ID:3ILOrvyC3

星人さま叩きまくって炎上商法で稼いでた奴だろ

なんか予告で言ってたで

URL貼っとくわ


5:ID:2EHKnquW1

>>4

有能


6:ID:4MGSwzdA4

>>4

のせられてんじゃねぇか

いや、のせられてるのは商法で、リンクはのせてるんだけど

なにを言ってるんだ俺は


7:ID:3ILOrvyC3

状況詳しく


8:ID:3ILOrvyC3

>>6

おまえはおちつけ


9:ID:6RUXcehL6

>>4の奴、悪い噂ばっかやで

他人を貶すような動画多いし

特に女癖が最悪で、他の配信者からも煙たがられてる


10:ID:2EHKnquW1

>>9

その書き方だと>>4が最悪な奴みたいに見えるで


11:ID:6RUXcehL6

>>10

ほんまや…

>>4にあるURLの先の配信者のことや!

悪気はなかったんや、許してくれ…


12:ID:3ILOrvyC3

>>11

大丈夫やで

みんなわかってくれる


13:ID:6RUXcehL6

>>12

さすが星人さまの動画見てるだけありますわ


14:ID:1ADGjmpT9

詳細な↓


①>>4の奴がお面取る予告

②投稿者の友人が星人さまに依頼

③控え室で投稿者は待ち伏せ

④戻ってきた星人さまに迫る

⑤投稿者行方不明


様子は生配信されてた

星人さまが映って数秒で配信が切れたから、④と⑤の間は正直わからん


15:ID:4MGSwzdA4

失踪も自演じゃね?


16:ID:1ADGjmpT9

自演の可能性もあるが、今のところ誰とも連絡ついてないっぽい


17:ID:5NPTxadG5

覗いてきた

毎日投稿してたのに1週間も音沙汰無しってつまり…


18:ID:2EHKnquW1

>>12

ヒエッ


19:ID:5NPTxadG5

というか、星人さまに募金するって言って金集めて、受け取ってもらえなかったから視聴者プレゼント、とかやってるけど、普通にアウトじゃね?


20:ID:6RUXcehL6

>>19

マジかよ、最悪だな


21:ID:1ADGjmpT9

生配信の最後を見て欲しいんだけど、星人さまの目が光ってるように見えるんだよね


22:ID:2EHKnquW1

>>21

星人さまなら目ぐらい光るで


23:ID:1ADGjmpT9

>>22

洗 脳 済 み


24:ID:5NPTxadG5

なぁ、その生配信があった次の日の星人さまの動画見てほしいんだけど…



 その日の動画も、陽気な音楽と絵本のようなタッチのオープニングから始まっていた。

「やぁみんな、おめでとう星人だよ!今日はとある高校の同窓会会場からお届け!成人のお祝いをしに来たんだ!あー、早くたくさんの笑顔が見たいなー!それじゃ、いってきまーす!!」

手を振りながら走り去る映像から切り替わる。カメラは彼と会場全体を映している。彼が祝いの言葉とパフォーマンスを披露すると、会場は大いに盛り上がった。そんな中、2人の男女が会場を出て行く様子が映されていた。ほんの数秒、しかも盛り上がりが最高潮となり、笑顔で溢れた画面の端。視聴者のほとんどが気がつかない、気づいたとしても特に気に留めないであろう。その男が、行方不明になっていると知らなければ。



168:ID:5NPTxadG5

その女、投稿者とSNSで繋がってたからちょっと調べてみたんだけど

なんかヤベー奴らと連んでるっぽい


169:ID:3ILOrvyC3

>>168

ヤベーって、893とかそっち系?


170:ID:5NPTxadG5

ついでにその日の事件調べてみたんよ

そしたら、会場近くで暴行事件があってな

URL↓


171:ID:5NPTxadG5

169>>そう、そっち系


172:ID:4MGSwzdA4

顔面殴られまくって人相わからない

加えて記憶障害か

ビンゴだな


173:ID:5NPTxadG5

だから、女に手出して報復で殴られた、ってことじゃないか?


174:ID:1ADGjmpT9

なるほど

さすがやで


175:ID:2EHKnquW1

そうなるような星人さまの呪いだったりしてw


176:ID:6RUXcehL6

>>175

おいやめとけ

消されるぞ


177:ID:1ADGjmpT9

あ、今日の星人さまの動画上がった



 いつも通りのオープニングが流れ、歩きながら自撮りするおめでとう星人が映る。

「やぁみんな、おめでとう星人だよ!今日は病院からお届け!入院中の友人の誕生日を祝ってほしいんだって!それじゃ、いってきまーす!!」

画面が切り替わり、病院の中庭らしき場所が映る。おめでとう星人が駆け寄った先には、車椅子に乗り、頭部のほとんどを包帯で覆った人物がいた。

「誕生日おめでとう!!これは僕からのプレゼントだ!」

車椅子を押す母親らしき人物は、複雑な表情でそれを見守る。

「怪我をしてしまったのは悲しいことだね。でも、だからこそ!お祝いはしなきゃね!今日は君が生まれてきた記念日なんだ!ハッピーになれば、きっと怪我もすぐに良くなる!ハッピーバースデー!!おめでとう!!」

「おめ…で、とう?」

「そう!人をハッピーにする魔法の言葉だよ!」

「おめ、でとう…」

「うんうん!その言葉で、君もみんなもハッピーになれるよ!」

おめでとう星人は彼と肩を組み、カメラに呼びかける。

「見てくれているみんな!『おめでとう』のコメントよろしくね!加えて、彼の治療費のために募金をするよ!協力してくれるハッピーな君は、下のURLをクリック!それじゃ、みんな!明日もハッピーな一日にしよう!ばいばーい!!」



380:ID:5NPTxadG5

この包帯男があの配信者だとしたら…


381:ID:6RUXcehL6

>>380

怖いこと言うなよ…


382:ID:3ILOrvyC3

記憶障害って、殴られた前後を覚えてないだけじゃないのか?


383:ID:4MGSwzdA4

程度によるけど、ショックに関する記憶が抜け落ちるらしい


384:ID:1ADGjmpT9

>>382

星人さまに『おめでとう』を消されてたりして


385:ID:2EHKnquW1

>>384

『おめでとう』を司る神やからな



 〝おめでとう星人の呪い〟の噂は広まったものの、すぐに終息した。彼は変わらず祝いを届け続け、動画は笑顔で溢れていた。

「やぁみんな、おめでとう星人だよ!今日はなんと!僕の弟子を紹介するよ!」

カメラの前に、おめでとう星人と同じスーツを身に纏い、クラッカーような帽子と赤いベネチアンマスクを着けた男性が映る。

「はじめまして!おめでとう星人の弟子だよ!」

マスクの下には、縫合跡が残っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おめでとう星人 鈴木 千明 @Chiaki_Suzuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ