三周年目のハッピーエンド。そして……

れなれな(水木レナ)

ともだちってなんだ!? わからない……でも、これでいいと思う。

 私は安城あんじょう麗佳れいか


 ネット小説家。でもアマチュア。「れいかちゃま」というふざけたペンネームでカクヨムにいる。


 カクヨムというのは、平成の終わる三年前から始まったWEBサイトで、ユーザーは好きに小説を書き、また読むことができる。


 トリと呼ばれるフクロウのマスコットも定着し、今年三年目のアニバーサリー企画が催されている。……平成最後のお祭りだ。


 自分の部屋でPCを打っていると、朝から父がいきなりドアを開ける。……いつものことだ。


 むっつりとした顔でギラギラした目つき。じろりじろりと私の部屋の隅からすみまで値踏みするように眺め、


「いつまで遊んでる!」


 むやみとすごんで問いかける。


 いや、もうこれ恒例行事。最初は傷ついていた私だけど、今は平気。


「ノックぐらいしてってば。今小説書いてるの!」


「何年目だ!?  おまえのいう、その小説でいくら稼いだ? え? いくらになったんだ!?」


 噛みつくように説教され、私は黙る。三年目だよと言い返せない。


「…………」


 実は無料のカクヨムでは、いくらカクヨムしても、料金は発生しないのだ。


 小説を書くのにも、読むのにも、本当にタダ! 費やした時間を金で換算しろと父は言う。だが……。


「小説ってそういうものじゃないの!」


 言い返すと、


「なにが小説家だ? 芸術家きどりか!?  いい加減にしろっ」


 ……こういう現実が待っているのである。





 時はさかのぼり、WEB小説のカクヨムでのコンテストの中間結果が出たころ。


 私は、新しいもの好きの妹にだけ、打ち明けた。


「実はね、私……」


 カクヨムのWEBコンテストの中間選考に残っていたの、と。


 反応はなかった。さらに、私はつけ加えた。


「作品はね、三つ! 三つ残ったの。短編でね……」


 妹は遠い目をして、父と同じことを考えているようだった。そういう目をしていた。





『むなしい。』


 私はその日の近況ノートに書きこんだ。いや、気づいたらその言葉しか頭になかった。恨み言がざらざら出てくる。先に「カクヨムコンに三作品! 中間突破しましたー!! やったね!!!」と書いていたためか、いつもは集まらない人数が集まって書き込みしてくださった。


 いわく、


「勝ったつもりでいるから……w」


「周囲の反応なんてそんなもん。夢見た代償やね」


「ワシも親に言うとナンボになるんやって言われたけど……」


 ……世間話レベルの噂が、聞こえただけだった。


 そんなことはわかっているし、カクヨムに初めて小説をUPした時から思い知っている。





 かつてこういうことがあった。


「PVって、なに?」


 ページプレビューは当時、開いた回数だけ表示された。自分でめくったのも含めて。


「私が三回開いて、PVが3ってことは……だれも見てくれてないってこと?」


 なにが悪いのかなあ。考えた。そして、ついに初レビューが星一個ついたと思って閲覧すれば……そこには。


「あなたの文章ひどい。もっとラノベで勉強しろ」


 とだけ。タイトルも「ひどいですねー」だった。


 まあ、カクヨムでの初めての人類とのコンタクトだったので、私も一生懸命応対を繰り返し、結論。言われることはなんでもやってみよう、となった。


 初めての人類との交流はしばらく続いた。


「読みにくいから空行空けて」


「それは嫌です」


「人のアドバイス聞かないって、何様?」


「何様っていうか……どうやればいいのか、わからないので」


「いいわけするヤツはのびないよ」


「すみません」


 読みやすくするために、私は実験をつづけた。もう、それしかないと思った。


 文章は読みやすく、わかりよく。セリフは長くて三行で。地の文のいらないところは削って……。文学的評価をされたいわけではないので、そこはバサバサと切った。もとから自信などなかったのだ。そこから始めた。


 WEB小説を書き続けてきた人が当たり前にやっている努力を、私はカクヨムにきて初めて教えられたのだ。やるしかなかった。


 で、なぜか初めての人類は、いつの間にか姿を消した。規約違反で運営さんにアカウントを消された、と後で本人から聞かされた。ご愁傷様である。


 気づくと、初めてもらったレビューが消えていた。胸に突き刺さっていた棘が、すうっと溶けていった。





「何が『やったね!!!』だよ……このノート、削除しようかなー、今からでも」


 思ったがやらなかった。一番最初に、お祝いのメッセージをくれた人がいたからだ。


「中間突破おめでとうございます! ……これからも応援しています!!」


 私は、その言葉にしがみついた。


「お祝いありがとう存じます! とてもうれしかった! とても!」


「いいえ~。こちらこそ、いつも応援していただいて~~結果が待ち遠しいですね~~」


 その人は、前回のコンテストで最終選考まで戦い抜いた人だった。だからか。三年間、日の目を見なかった私の存在を気にかけてくれた!


 うれしいうれしいと噛みしめた。泣きそうになったときはそのページを見た。


 私自身が、コンテストに興味を失って(結果を絶望して)いたときだったので、うれしさが忘れられなかった。自分は一人ではなかったと思えた。


 新しい近況ノートへのどSな傾向のある書き込みに、ほとんど絶望していたとき、画面の右上に設置されたベル型の通知が、最後のオレンジの光を灯した。ノートへのメッセージだ。


 また、苦情みたいなのかな……と、思ったが。


「周囲のことなんていいんです。それよりまた、おススメの本を教えてくださいな~~」


 そんな書き込みが、どんなに私を救ったろうか。


 すばやくお名前をクリックして、お相手のユーザーページに飛ぶ。三年間、通しておぼえた方法だった。


 沈みきっていた心臓がまたドクドクいいだす。あいも変わらず拙い言葉をつむぐ。


「ありがとう! あなたの御来訪、とてもうれしかった! とても!」






 END


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