自活するのはラクでなし
「ひいさま、そろそろ食糧が」
「おかしいのう」
まあ、かなり気軽に出発してしもうたからどこかで物資の調達は必要じゃと思うてはおったが・・・
「早くないか?」
「ひ、ひいさま、そんなことないですよぉー」
「?
「は、はい」
「昨夜のメニューを言うてみい」
「は、はい。フグの一夜干し炙り、餃子、酢豚、白米2椀」
「ちょ、ちょっと待て、緑子」
「なんじゃ
「昨夜は、フグの一夜干し炙り、トンしゃぶ、ブリ大根、白米1腕じゃろうがっ!」
「これこれ2人とも」
「なんじゃ赤子!」
「2人とも若年性痴呆か? 正解はフグの一夜干し炙り、ポトフ、ポテトサラダ、チキンカツ、白米3腕ではないか」
こ、こやつら・・・
「はあ・・・3人とも不正解じゃ。昨夜わらわはフグの一夜干し炙りとカボチャ、あとは昼の残りの素麺じゃったろうが。のう、鈴木」
「はい。姫さまのおっしゃる通りです」
「よお分かったわ。おのれら3人して毎夜備蓄食料を漁っておったんじゃな」
「ひ、ひいさまっ! も、申し訳ありません!」
「ふう・・・見事に和洋中パーフェクトな献立で逆に恐れ入るわ。さて、明日からどうする」
「お、お叱りにならないんですか?」
「うむ。もうよい」
「ひ、ひいさま! ありがとうございます!」
「育ち盛りの乙女3人に自制心のあるわらわたちのような食事をせえというた方が酷じゃった」
「うふ。そうそう。ウチらは乙女ですからねえ。なあ、青子?」
「ま、まあの。乙女じゃからのう。のう、緑子」
「ま、まったくじゃ」
「ほ。ところで3人とも年はいくつなんですか?」
あ。鈴木。
場を凍らせてどうする。
よりによってなんという質問を。
「す、鈴木! それはレディに対して失礼じゃっ!」
「え? でも赤子さん。皆さん少女の出で立ちで可愛らしい容姿ですから、つい・・・わたしの娘を思い出して」
「な? 鈴木の娘はロリババアか?」
「ロリ? なんと?」
「鈴木の娘は年増の若作りかと訊いたのじゃ!」
まずいのう。赤子が見境をなくしておるわ。
しょうがないのう。
「鈴木、違うのじゃ」
「ひ、姫さま。私は何か間違ったことを」
「赤子は5,000歳じゃ」
「・・・え?」
「青子は5,500歳。緑子なぞ一番幼い顔して6,000歳じゃ」
「ひいさまっ!」
「しょうがなかろう。鈴木。こやつらはな、不老不死の白桃を食してしもうたクチじゃ」
「あ。あの白桃を」
「不死であるだけでなく不老じゃからの。育ち盛りのまんまの胃袋で年中腹をすかせるのも自業自得じゃ」
「面目次第もございません〜」
さてさて。
明日からどう命をつなごうかのう。
「近くに狩のできる森でもないかのう」
「あの、ひいさま」
「なんじゃ、緑子」
「馬肉、とか」
「殺すぞ」
「ひいっ! お、お許しをっ!!」
ふう。空腹でもはやどれが冗談か分からぬわ。
「あ。姫さま。音が」
「ん? 鈴木、どの音じゃ?」
「せせらぎが」
耳のよい鈴木のお陰で命拾いしたわ。
瀧と渓流じゃ。
「ひいさまっ! 沐浴しましょう!」
「そうじゃのう。水もすべておのれらの勝手な自炊調理で使い果たして体を拭くことすらできんかったからのう」
「ひ、ひいさま、嫌味は美容の敵ですよ」
美容、か。
「のう、鈴木」
「はい、姫さま」
「佐藤はわらわのどこがいいんじゃろうかのう?」
「ひ、姫さまのですか?」
「うむ。まあ、若いには若いが、5000も年上のあやつらにこの口の利き方と態度じゃしのう」
「それは主従の関係でしょうから」
「そうかのう。わらわは顔もあんまりよくないしのう」
「えっ・・・」
「なんじゃ、鈴木」
「SNSで拡散されている姫さまの肖像はパラダイスの少年兵たちの間でかつての『ピンナップ・ガール』のような人気でしたよ」
「ああ・・・戦闘機のパイロットなどがコック・ピットにピンで貼る
「青いココロを責めることもできません」
「少年兵というたが、何歳から徴兵されるのじゃ」
「・・・12歳です」
「過酷じゃのう。パラダイスなどという国名なのにのう」
おや。
トリオがはしゃいでおるわ。
「ひいさま! ひいさまも早くお脱ぎなされ!」
「こらこら、おのれら。丸裸ではないか。鈴木が見るに耐えんという顔をしとろうが? 鈴木?」
「はっ・・・いやつい見とれて・・・いやいや!」
「まあ、お主も男じゃからのう。ただ、あやつら実年齢は婆もいいところじゃぞ」
「わ、私は向こうの方を見てきます」
逃げたの、鈴木。
ならばわらわも垢を落とすとするか。
「ひいさまあ。まるでお風呂みたいに隠してお入りで。つまらんですよ」
「おのれらのように羞恥せぬほど幼くはないのだ」
「17歳ではないですかあ」
「達観するほど婆でもないわ」
鈴木は下流の方で沐浴を済ませたようじゃ。娘もおると言うておったが、戦車の重油まみれの汚れを落とすとなかなか青年風でもあるのう。
「さて。魚はおろうかのう。おってもこんな清流の魚じゃと用心深くて容易に捕れんだろうのう」
「ひいさま、これを」
釣り具か。
花火にライターに釣竿。
「餌はどうする」
「ひいさま、アレを使います」
「アレ、じゃと?」
「アレ、です」
ぬう・・・こやつら、まさか。
「ほれ、ひいさまっ!」
「ぬ、ぬおおおおっ!?」
「ほれほれ、こんなにたくさん!」
「ぬわあああああっ! の、のけろ、のけろ!」
「ひいさまあ。この子らも生きておるのですから」
「ええい! ミミズをこの子らなどと呼ぶなっ! 青子! どっから持ってきたんじゃ!」
「ずうっと馬車で黒箱に入れて冷暗所で育てておりました。食糧からこの子らの餌もいただいて」
「青子!」
・・・まあよいわ。
釣れたからのう。
「ひいさま、おいしいですね」
「・・・泥臭いのう、青子」
「川魚ですからね。鈴木、食べないんならそれ貰うてよいか?」
「青子さん、ダメです! 私だってひもじいんですから!」
「ほう。勇者は食わねど高楊枝ではないのか?」
「腹が減っては戦はできぬ、です!」
三日三晩交代で釣りに明け暮れて、天日と重油を焚いて干物を大量に作ったわ。
魚、何百匹殺したかのう。
命を繋ぐのも生々しいことよのう。
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