4ピースで驀進せよ
「
「ほんにのう、
この2人でもそれなりにデリカシーがあって意外じゃったわ。
まあ、トリオで数千年王室に仕えておったから、悲しゅうて当たり前か。
「姫さま」
「おお、鈴木。緑子が居らんようになって洋食が余っておる。羊腸など食してもよいぞ」
「結構です。それより、パラダイスの動きが
「ほう」
「佐藤さまが
「留学生・・・パラダイスはそんな事業もやっておったのかえ」
「はい。佐藤さまは先見の明がおありの方ですから」
「先見の明、のう。わらわからしたら極めて穴だらけの計算に見えるがのう」
「はい・・・」
「鈴木。反論せんのかえ?」
「する気が起きません」
「緑子のことか」
「はい」
「そうじゃのう。あやつの行動を振り返るとおよそ打算やら先見やらというものとは程遠いのう」
「ですが、永遠となりました」
「永遠では、ない。そんなものはない」
「は、失礼しました」
「すまぬ。語気を荒げてしもうた。鈴木の言う通り、永遠には近い行いじゃったわ。じゃが、わらわを悲しませるとは不忠な部下じゃったわ」
「・・・」
「ひいさまあ」
「なんじゃ、赤子」
「距離計がぐるぐるしております」
「ついに来たか!」
「へ?」
待ちわびておった。
とうとう空間の歪みに遭遇したわ。
「みんな。よく聞くのじゃ。これから空間をすり抜ける」
「空間?」
「そうじゃ。青子。地の果てまで白兎が駆けて何里じゃ」
「ええと・・・1万里?」
「そうじゃろ。なら、10万里とは一体なんのことじゃ? 地の果てを突き抜けてしまうわ」
「うーーーん。ひいさま、頭が割れそうに痛いです」
「知恵熱じゃ、安心せい。鈴木、高天原への留学生はどうやって行ったか聞かされておるか?」
「い、いいえ。軍事機密ですので私のような下士官には一切」
「なら、高天原はどこにあるかも聞かされておらぬな」
「はい。恥ずかしながら」
「月じゃ」
おや。
全員、固まってしもうとるわ。
「え、ええっ!?」
「これ、全員で大声出すな。この間砲身の横で聞いた発射音のせいでまだ鼓膜がビリビリするわ」
「つ、月って、あの夜空に浮かぶお月さまですかっ!?」
「そうじゃぞ。5000年も生きておってそんなことも知らなんだか、赤子」
「いやはや・・・まさか・・・!」
「姫さま!」
「鈴木。言いたいことは分かるわ。実はのう、それほどまでに山女王国とパラダイスの間には科学技術の隔たりがあるのじゃ。AI兵器しかりじゃ」
「ですが・・・私たち一般兵は一切そんなことを知りません。留学生はどうやって高天原に行ったんでしょうか?」
「この間戦車で空を飛んだじゃろう。ああいう風に地面に火薬をぶっ放した勢いですっ飛んでいく『ロケット』という乗り物があるのじゃ」
「では留学生はそれで」
「じゃが、命がけじゃぞ? なにせ成層圏を突破して行くんじゃからのう」
「で、では、姫さまは最初から自国では行けぬと知りながら無益な行程を」
「たわけが。行けるわい。こうして空間の歪みに行当たっとろうが」
「ですがそれは偶然では」
「無礼者!」
あ。
しまった。思わず鈴木を怒鳴りつけてしもうた。
フォローできるかのう。
「失礼しました」
「ん? 鈴木。怒らぬのか?」
「はい。姫さまの行動には全て理由がある。それを一瞬でも忘れた私をお許しください」
「・・・すまぬ。そういうことを抜きにして声を荒げたわらわをこそ許しておくれ。じゃが、鈴木、そのとおりじゃ。偶然ではないのじゃ。よいか」
わらわは地面に木の枝で図解してみんなに説明してやった。
「王室にある屏風絵と掛け軸、それから和紙に毛筆の書物をすべて読み漁った結果、空間の歪みに行き当たるポイントはこの世で10箇所だと特定きた。ただ、この球体をした世の、縦の線しかつかめん。じゃから、まず一番確率の高い縦の線を最初の経路としたのじゃ」
「えっ。じゃあ、もし行き当たらなかったら」
「残り9本の縦の線を潰すまでよ。じゃが最初の1本目の、しかも半分少しで行当たったのは、偶然というか誠に幸運じゃった」
「ううむ」
おや。
思ったとおり頷いとるのは鈴木だけで、赤子と青子はよく分からぬ顔をしておるわ。
「赤子、青子。どうじゃ、スッキリしたか? つまり10本の線を全部潰したら10万里。ついでに佐藤のようにロケットをぶっ放したら直線で月まで10万里じゃ」
「ひいさま、ようく分かりました!」
「赤子、ほんとに分かったのかえ?」
「はい。つまり、ひいさまはロケットの開発費をケチったんですね?」
「・・・もうよいわ」
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