禁忌魔法

伊崎夢玖

第1話

「カズヤ、話って何?」

「うん…呪文スペル時間拘束タイムコンストレイント

「…」

呪文スペル、全てを覆い尽くすダーク精霊フェアリーよ。我が名カズヤの名の下に命ずる。かの者、サクラに魅了チャームを行使せよ」


闇の精霊が現れ、サクラに魅了チャームの魔法を行使する。

魅了チャームは精神干渉最上位にある闇魔法。

昔、ある男が俺のように気に入った女を片っ端から魅了チャームを行使し、攫って行く事件があった。

女たちは男の玩具にされ、飽きると殺された。

男が捕まった時、男の屋敷の地下には数えられないほどの人骨があったらしい。

そんな悲しい事件があったために魅了チャームの行使は禁忌とされた。


(バレなければ大丈夫)

「サクラ、お前の好きな奴は誰だ?」

「カズヤだよ」

「本当に?」

「本当だよ」

ちゃんとサクラに魅了チャームがかかっている。

これでサクラは俺の物。

誰にも渡さない。

べったりと俺の腕に絡みついてくるサクラと共に俺の家に向かう。


この世界で魔法の不適切な使用は懲罰を科せられる。

正当防衛なども相手に怪我を負わさない程度なら懲罰にはならないが、重症以上の怪我を負わせた場合懲罰委員会にかけられる。

魅了チャームは禁忌魔法。

誰にも知られてはならない。

だから、周囲に魔法感知阻害魔法を施しておいた。

しかし、どこから漏れたのか分からないが、俺がサクラに魅了チャームを行使したことがバレた。

突然家に役人がやって来て、サクラと共に懲罰委員会に出頭させられた。


「これはどういうことだ?」

「どういうとは?」

「サクラはなぜ魅了チャームがかかった状態にある?」

魅了チャームなんてかけていない。元からサクラは俺が好きだ。サクラに聞いてみるがいい」

「サクラ、君はカズヤが好きなのか?」

「はい」

魅了チャームの魔法がかかっているのは分かるか?」

魅了チャームなんてかかっていません。私は普通です」


してやったと思った。

魔法の解除は術者が解くか、術者以上の魔法能力のある者が解くしかない。

俺はこの街で5本の指に入る程の魔法能力がある。

そう易々と解除できる人間なんていない。

「…仕方ない。入ってきたまえ」

ドアが開くとそこにはタクヤがいた。

俺の双子の兄で、俺よりも魔法能力が上だった。

ここにタクヤが現れた意味を瞬時に把握した。

「どうしてこんなことをするんだ、カズヤ」

「俺は何もしていない」

「…分かった」

タクヤはサクラの頭上に手を翳すと、呪文を唱えた。

呪文スペル魔法付加解除マジックエンチャントアブソリューション

途端にサクラは意識を手放した。

それは魔法を付加エンチャントしていたことに他ならない。

魔法付加解除マジックエンチャントアブソリューションは強制的に解除するため、魔法をかけられた人間に対して強い副作用がある。

意識消失だったり、記憶障害だったり…。

サクラにどんな副作用が現れるかはサクラの意識が戻ってからでないと分からない。

「カズヤ、君はサクラに魔法をかけていたね」

「黙秘する」

「それは君にとって不利益にしかならない。言いたいことがあるなら言うんだ」

「何も言いたくない」

「カズヤ…」

俺がサクラに魔法をかけていたことはこれで証明された。

しかし、それが魅了チャームかどうかは分からない。

懲罰委員の老害共はこそこそと話をしている。

俺の懲罰でも決めているのだろう。


昔からサクラはずっとタクヤばかり見ていた。

タクヤもサクラだけを見ていた。

二人は両想いだった。

そんな二人の姿を幼少時からずっと見てきた。

魅了チャームが解けた今、やっとの思いで手に入れたサクラはタクヤの元に行ってしまう。

そんなこと、耐えられない。

それなら、いっそのこと全部なくしてしまおう。


呪文スペル、熱き炎に宿りし火精霊イフリートよ。我が名カズヤの名の下に命ずる。この場を灼熱の海にせよ」

次の瞬間、俺の周り一帯が火の海と化し、懲罰委員の老害共やタクヤ、サクラまでもが火の海に巻き込まれた。

あっという間に皆死んだ。

術者である俺自身も身を焼かれ、言葉を発するのも辛い。

しかし、死ぬ前にやらなければならないことがあった。

呪文スペル、我が命と引き換えに召喚する。現れよ、不死鳥フェニックス

そこで俺は命尽きた。

不死鳥フェニックスは俺の街だけでなく、周辺諸国も焼き尽くした。

三日三晩暴れた不死鳥フェニックスは召喚されてから四日目の朝に自然消滅した。

不死鳥フェニックスがいなくなった後、何がそこに存在していたか分からないほどの焦土が広がっていた。



命尽きる前に最後に俺がやらなければならなかったこと。

それは絶対に犯してはならない『同族殺し』という最大の禁忌だった。

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禁忌魔法 伊崎夢玖 @mkmk_69

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