図書室の夢

 時折、母校の図書室の夢を見る。


 高校時代は弓道部の外に文芸部に所属していたので、昼休みや放課後に、図書室のカウンターの辺りでよく雑談をしていた。

 相手は、顧問の教師や、文芸部員が主だった。たまに、図書室の常連もそれに加わる。

 割に人見知りをする性格だったが、創作や読書の話になると、結構誰とでも語り合えた気がする。

 文系の話題だけではなく、数学や理科系の話題も好きだった。

 

 夢の中で、私は制服を着ている。

 本棚の陰になっている場所に、パイプ椅子を持ち込んで、本を読んでいる。

 福永武彦や内田百閒のページをめくると、窓外そうがいで木々のさやぐ音が聞こえた。

 秋の風が雲を移ろわせ、さっきまでの陽射しが急に影になる。

 

 ふと、本に落としていた目を上げ室内を見渡すと、誰もいないような気になる。

 もしかしたら、自分さえそこにいないのかもしれない。

 立ち並ぶ書架しょかの隙間には、「誰か」の不在の気配だけが残っている。

 かつてそこにいたはずの「誰か」。

 会ったことも、話したこともない、その「誰か」。

 

 誰にも会うことはなく、私もその気配のひとつになる。

 そんな夢を、たまに見る。

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虚空言行録 長門拓 @bu-tan

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