第4話『追放』が便利な理由の考察① 追放の源流は『みにくいアヒルの子』
<< 前回までのあらすじ >>
これまで第一回目では『ざまぁ』の面白さは『お約束の面白さ』であることを考察し、第二・三回目では童話に見る『ざまぁバリエーション』の考察を行いました。
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今回からは、近年ネット小説の新たなテンプレとして定着しつつある『
―追放の源流がどこにあるのか、
―追放がなぜこれほど流行しているのか
―そして追放が持つ意味の本質とはなにか
について考察していきたいと思います。
――――――――― 目次 ―――――――――――
① 『追放ざまぁ』の源流は、アンデルセン童話『みにくいアヒルの子』
― 視点の変更による『気づきのざまぁ』の表現
② 追放テンプレにおける『実は元から強かった設定』の利点
― 不人気な修行描写を省略する『気づき』によるチートの発現
③ 『追放』が真に意味するもの
― 追放テンプレが意味するのは『一方的な権利の剥奪』
― そしてそれが読者に引き起こす『強い関心・同情・共感』の作用
④ 『追放テンプレ』が流行っている理由
― 組織からの離脱は主人公の自由な行動を可能とする
――書きやすさとオリジナリティの付与の簡単さ
― 『お約束化』によってストレスフリー化を実現した追放テンプレ
―― コミュニティにおける共通認識の広がりとその活用
④ 追放テンプレ、その先にあるもの
― 古典に見る『権利の剥奪』の応用例
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【 ① 追放ざまぁの源流は『みにくいアヒルの子』 】
アンデルセン童話の一つである『みにくいアヒルの子』は現在のネット小説における『追放テンプレ』の中でも主流なストーリー構造である『気づいてなかったけど実は最初から俺最強だった系ざまぁ』の源流と言えます。
以下、作品の考察。
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作品名:『みにくいアヒルの子』
ざまぁ対象:アヒルの母・兄弟、主人公をいじめた者たち
―――――――― あらすじ ――――――――――
① ある所に一匹だけ他のアヒルと違う黒い雛(主人公)が生まれる。
② 主人公は母・兄弟たちと姿が違うのでイジメられる。
③ 主人公はそれに耐えかね家出し、旅立つ(実質的な追放)
④ なんだかんだあって、実は自分がアヒルではなく『白鳥』だったことに気づく。
⑤ ざまぁ成立。
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<< ストーリーの解釈 >>
序盤から不遇な人生を強いられる主人公ですが、いろいろあった末に、ストーリーの終盤で自らがアヒルの雛ではなく『実は白鳥の雛だったこと』に気づきます。
そして主人公は白鳥の群れに受け入れられることでハッピーエンドに至り、今までいじめてきた奴らざまぁというストーリー構造となっています。
特筆すべき点としては、主人公が何かの努力の結果として新しい能力を獲得したというわけではなく、あくまでも『元々備わっていた能力に気がついた』ということによって境遇の変化を表現していることです。
つまり『
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この『
よって、アンデルセン童話である『みにくいアヒルの子は"気づいてなかっただけで実は元から最強だった設定の源流"』と言えるかと思います。
※1 なお、この源流というのはこの類型の作品の初出という訳ではなく、あくまでも『多くの人が人生の中で
※2 『みにくいアヒルの子』に見られる、加害者への復讐という形ではなく『視点に変更によって表現される
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なお、『みにくいアヒルの子』のストーリーの根幹はあくまでも『自分探しの旅』であり、決して『俺TUEEE!!』がテーマではないことにご注意下さい。
ネット小説に見られる『追放テンプレ』は、この『みにくいアヒルの子』のエッセンスを抜き出し、ストーリー最序盤で自分の強さに気づかせる展開にすることで、ストレスフル描写をすっ飛ばし、俺TUEEE描写をメインに据えることを実現しているのです。
これをチートモノで例えるなら、『シンデレラ』がいきなり魔法もらってお城の舞踏会で無双する様なものだとお考え下さい。
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【 ② 追放テンプレにおける『実は元から強かった設定』の利点 】
<< ストーリー展開の矛盾を軽減する効果 >>
追放テンプレと相性抜群な『実は元から最強だった設定』について、それを使うことによる効果を『修行描写の省略』という観点から考えていきたいと思います。
もし、みにくいアヒルの子が本当に普通のアヒルの子であり、いわゆる『最弱スタート型主人公』であれば、強くなるために何らかの
かつての少年漫画では修行は重要な要素であり、『修行によって主人公の成長を表現し、勝利によるざまぁ』をテーマとする作品は数多く存在し、それが大ヒットしていました。
しかしこの様な『修行』がテーマの作品は、商業書籍およびネット小説でも近年明らかに減ってきていることからも分かる通り、『修行は明らかに読者人気が無くなってきている』のです。
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この明らかに読者人気のない修行を回避する手段として、現在最も用いられるのは『チート』の導入です。
このチートは最初から主人公に備わっている場合もあるし、最序盤に神的な存在から与えられる場合もあります。
そしてチートがあれば修行などそもそも必要無いので極めて便利であり、そのためネット小説においては多様されることとなっています。
要するにこれが現在『なろうテンプレ』の最大派閥である、『チートテンプレ』です。
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しかしこのチート持ち設定をそのまま追放テンプレ主人公に当てはめることは出来ません。
なぜなら、追放の時点で主人公が『チート』を持っていることが明らかな場合、
『なぜそんなに強い主人公を追放するのか』
という問題が生じてしまいます。
常識的に考えて自分たちより明らかに「強い存在である者」や「有能である者」を組織から追い出そうとすることはおかしいと考えるのが普通です。
また同時に、主人公が最初から明白なチート持ちキャラだった場合、
『なぜ追放される時点で抵抗しないのか?』
という単純な疑問が生じてしまいます。
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それらを回避するのが『気づいてなかっただけで実は元から最強だった設定』です。
この『実は元から最強だった設定』を使うことで
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『無能だから追放される』かつ『最強だから修行などしなくていい』
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という都合のいい展開でストーリーを進行させることが可能となるのです。
要するに面倒な修行描写を『
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――――――― ここまでのまとめ ―――――――
① 追放ざまぁの源流は『みにくいアヒルの子』
みにくいアヒルの子では『視点が変わることでの気付き』によってざまぁを表現している。
② 追放テンプレにおける『実は元から強かった設定』の利点
『実は元から強かった設定』を用いることで、ストーリーを矛盾させることなく、不人気な修行を回避することが出来る。
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<< 次回:『追放』が便利な理由の考察② >>
『追放テンプレ』が真に意味する『一方的な権利の剥奪』とは
そしてそれが読者に引き起こす『強い関心・同情・共感』の作用について
あとがき:
なお多くの人がお気づきだと思いますが、この追放テンプレに当てはまらない追放モノも普通に存在します。
『主人公は自分のことを知っているが周りにそれを明かしていないだけ』
『ほとんど全員が主人公が有能であることを知っていたが、追放した者だけがそれを知らなかった』
『主人公は無能に見えて、実は有能……、と見せかけて実際無能だった』
みたいな展開です。
それらについては「お約束を逆手に取ることで生じるざまぁ表現」という観点から、『悪役令嬢』にみる応用ざまぁの考察で考えていきたいと思います。
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