第10話 様々な工夫で『主人公が読者に嫌われる問題』を回避可能とした悪役令嬢テンプレ


<< 前回のあらすじ >>



悪役令嬢モノでは『悪役令嬢はざまぁされるもの』という『お約束が存在すること』を逆手にとった『お約束外し』の手法が取られている。


悪役令嬢モノは『なろうテンプレ』の一種ではあるが、その面白さの背景には『お約束外し』という『アンチ・テンプレ的な要素』が含まれている。


そのため悪役令嬢テンプレは作者独自の工夫を入れる余地が多分にあり『応用性が高いハイブリッド型テンプレである』と言える。



<< 今回の内容 >>



加害者を『運命』というに設定することで、復讐劇ではあるものの、具体的な被害者のいない『ざまぁ』を実現した悪役令嬢モノについて。



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【 本来であれば『読者に嫌われてしまう』が不回避なはずのキャラ 】



これまでのざまぁ考察では、ざまぁには様々なバリエーションが存在し、その中でも特に人気が高いのは『加害者・被害者という因縁関係が成立する復讐劇』であるとしてきました。


しかし根強い人気のある『復讐ざまぁ』ですが、デメリットとして『復讐を行うことで被害者が加害者になってしまう』という点が挙げられます。


つまり復讐ざまぁは、元は主人公が被害者であったとしても、復讐の実行によって加害者側に回ってしまう主人公が読者から嫌われてしまう危険性を秘めているのです。



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またこの『主人公が読者から嫌われてしまう』は、主人公が本当に悪人であった場合にも生じる問題となります。


『悪役令嬢』はその名の通り主人公は悪役であることが運命づけられているキャラ設定であるため、普通に考えれば悪人である主人公は、読者から嫌われてしまう可能性が非常に高いといえます。



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そこで『悪役令嬢テンプレ』では―



・転生の概念の導入することよる『自分自身は悪くないが身に覚えがある』状況


・敵(加害者)を『運命』に設定することによって『運命ざまぁ』を表現する



―という手法を導入することで、この『主人公が読者に嫌われてしまう問題』を回避しています。



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【 『転生』は”自分自身は悪くないが身に覚えがある”という不思議な状況の説明を可能とする 】



普通に考えれば、主人公が悪役令嬢キャラであるのならば、なんらかの『悪事』を働かなくてはいけないはずです。


この悪事は他者(多くの場合、本来の主人公)をいじめることを娯楽としたり、虚偽によって貶めることで自己への利益誘導を図るという様なことを指します。



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これを普通に悪役令嬢が行った場合、それが例え主人公というストーリー側から優遇を受ける立場のキャラクター設定でも、その行いを不快に感じる読者は多いでしょう。


この様に悪役令嬢の悪事は本来、読者から共感を受ける性質のものではないのです。


そこで悪役令嬢テンプレでは『転生』という概念を導入することによって、この主人公が悪人設定キャラ問題を解決しています。



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悪役令嬢テンプレにおいては、主人公は転生者であり、元々はストーリーとは何の関係もない第三者なのです。


つまり悪役令嬢というキャラクターが行った、あるいはこれから行う予定の悪事は、中身である転生者から見れば他人事であり、


転生者視点で見れば『自分が行ったわけではない悪事の責任を取らされる』という、を受けていることになるのです。



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普通に考えれば『自分がやったわけではないことの責任をなぜ取らなければならないのか?』という話になり、主人公が抵抗することもなくその現実をすんなり受け入れるというのは無理がありすぎる展開と言えます。


しかしここでも『転生』という概念の導入が効いてきます。


主人公を転生者に設定することによって『自分でやったわけではないけど、身に覚えがある』という不思議な状況をふわっと説明することができるのです。


また『転生』という設定はネット小説界隈において既に説明不要な常識と化しているため「転生とはなにか」「なぜ転生したのか」という説明は省くことが出来ます。



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この『自分がやったわけではないものの、身に覚えがある』という不思議な状況は、主人公の中身の人格はあくまでも悪くなく、ということを強調しつつ、


一方で、確実に身に覚えがあるため現実的な問題への対抗策を考え、行動を起こすというストーリー展開にスムーズにつなげることを可能としています。



<< ここまでのまとめ >>



悪役令嬢テンプレでは『転生』という概念の導入によって、主人公は悪役令嬢でありながら、中身の人格はあくまでも被害者であるという設定が成り立っている。


自分はあくまでも悪くないが、それでも確かに『身に覚えがある』ため、現実的な問題へ対抗するための行動を引き起こすことを可能としている。



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【 悪役令嬢テンプレにおける加害者はストーリーによって押し付けられる『運命』 】



また主人公が被害者とした場合、じゃあ一体誰が加害者なのか?という疑問が生じます。


復讐ざまぁにおいては、加害者に対して被害者が復讐を行うという構造が一般的であり、であるといえます。



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悪役令嬢テンプレにおける加害者は一体誰なのか?


一般的に思い浮かぶのは、本来のストーリーで悪役令嬢をざまぁする側である本来の主人公でしょう。


しかしそれは表面的な解釈です。


実際に悪役令嬢を加害しているのが『悪役令嬢はざまぁされる運命という』なのです。



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”悪役令嬢は悪人”


”悪は最終的に負ける”


”そして破滅し、ざまぁされる運命”


これらは『お約束』として広く認知されているであり、


この常識は幼少期からの『ざまぁ教育』によって人々に刷り込まれていることなのです。



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この常識は悪役令嬢の側から見れば不条理極まりないものと言えるでしょう。


最初から負確負け確実


よくよく考えてみれば、悪役令嬢はサクセスストーリーを演出するためのやられ役であり、ストーリーの被害者なのです。


この不条理な『ストーリーお約束への復讐』こそが悪役令嬢テンプレの肝なのです。



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加害者を『ストーリーお約束』という概念に設定することは、被害者である主人公が加害者に周ることを回避することも可能としています。


具体的な個人に対する復讐の場合、復讐を表現するためには相手を加害するしかありません。


しかし、ストーリーという概念に対する復讐の場合、『ストーリーお約束という押しつけの思い通りにならない』ということで、復讐を表現することができます。


これはまさに『運命に対する反抗』


つまりは『運命ざまぁ』という、より高次元なざまぁを表現することを可能としているのです。



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この『運命ざまぁ』の利点は言うまでもなく、主人公が加害者になることを回避できることです。


運命に対する復讐は、具体的な被害者のいない、と言えるのです。



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<< 今回のまとめ >>



悪役令嬢テンプレは、ざまぁバリエーションの中でも人気の高い『加害者・被害者という因縁関係が成立する復讐劇』である。


復讐ざまぁには『主人公が読者から嫌われてしまう問題』というデメリットが存在するが悪役令嬢テンプレでは、


―転生の概念の導入によって、主人公の中身はあくまでも被害者であるとすること


―加害者を『ストーリーお約束』という概念に設定すること


によって、読者に嫌われる問題を回避している。



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<< 次回予告 >>



『シンデレラの姉』を主人公の例にした、悪役令嬢ざまぁテンプレのざまぁポイント解説



※なお、悪役令嬢モノ主人公のすべてが読者から愛されているとい訳ではなく、また読者から嫌われていないわけではないことにもご注意ください。


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『ざまぁ』について考える -『ざまぁ』の面白さは『お約束』の面白さ 軽石 @ebikani

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