第6話 『追放』が便利な理由の考察③ 流行っている理由は『書きやすいから』


<< 前回のあらすじ >>


前回の考察では、『追放』が真に意味にするのは『』であること。


また人間は『権利の剥奪』自体に忌避感を持っており、例えそれが正当な理由があって行なわれた場合であったとしても、関心を示さずにはいられない心理を持っていること。


そして『追放テンプレ』ではそれを『正当な理由なく』かつ『一方的』に行使しているため、読者は権利を剥奪された側(追放される側)に対して『強い関心・同情・共感』を抱かずを得ないという、それよって強い『読者引き寄せ効果』が生じていること。


また同時に、『追放』というただでさえ忌避される権利の剥奪行為を、『あえて正当な理由なく行使しており』その事自体が『追放テンプレ』に対して不快感を抱く読者が存在する理由であると考察しました。



<< 今回の内容 >>



今回は『追放テンプレ』が持つ作者視点での『書きやすさ』の観点から論じて行きたいと思います。


また本来忌避される存在である『追放』がを果たし、これほど受け入れられているのかということに対して『お約束の定着化』という観点から考察していきたいと思います。



―――――――― 目次 ―――――――――


④ 『追放テンプレ』が流行っている理由

― 追放がもたらす『因縁設定』と『その後の自由行動』

――書きやすさとオリジナリティの付与の簡単さについて


― 『お約束化』によってストレスフリー化を実現した追放テンプレ

―― コミュニティにおける共通認識の広がりとその活用


――――――――――――――――――――――――



<< 『追放テンプレ』が流行っている理由 >>



今の時代、なぜ『追放テンプレ』がこれほどまで流行っているのか。


これまでは『読者側の視点』から一方的な権利の剥奪がもたらす効果を主に論じてきましたが、今回は『』にフォーカスして考察していきたいと思います。



◆◇◇◇◇◇◇◇



【 追放がもたらす『因縁設定』と『その後の自由行動』 】



『追放テンプレ』における一般的な展開としては、ストーリーのにいきなり主人公の追放が宣言され、そこからすぐに第二の人生がはじまります。


この『組織からの離脱』は主人公を自由に行動させるための重要な要素となっており『書きやすさ』の観点からみれば以下の3つの利点が挙げられます。


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① 『疑似ゼロからスタート』は人間関係描写を容易とする


② 追放がもたらすのは『因縁の設定』が容易さ


③ 自由行動は『オリジナリティ』の付与しやすさにつながる


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◇◆◇◇◇◇◇◇



① 『疑似ゼロからスタート』は人間関係描写を容易とする


ファンタジー作品において主人公の人間関係が『ゼロの状態』から始まることは、その話の中に登場する人物の設定や、人間関係の説明を分かりやすく、かつ違和感なく描写できるという利点があります。


なぜならゼロの状態から始まるから構築されていく人間関係は『主人公と読者の視点が同じ』になるので、非常に分かりやすいものとなるからです。


これがもし、主人公が組織内に引き続き所属している状態から始まるストーリーであれば、『主人公はその相手のことをよく知っているけど、読者は知らない』という状況になり、説明がややこしくなること必至です。



◇◇◆◇◇◇◇◇



なおこの『ゼロからのスタート』は現在のネット小説ファンタジーにおける基本形態といってよいものです。


なろうテンプレにおける主流派である『トラック転生』や『赤ちゃん転生』はまさにこれを追求した究極の作品形態と言えます。


主人公を無理やり元いた場所と『なんのしがらみもない環境』に移動させてしまう事は、主人公を取り巻く人間関係を強制的にリセットし、そのことによって『主人公と読者の視点を一致させること』を実現しているのです。



◇◇◇◆◇◇◇◇



② 追放がもたらすのは『因縁の設定』が容易さ


ではなぜ『普通のゼロからスタート』ではなく、『あえてゼロからスタート』である必要があるのか? ということを考えてみると、それは『』という所に行き着きます。


第二話の『童話にみるざまぁパターン分類』で考察した通り、最高のざまぁを表現するためには『何かしらの因縁』が必要となることは明らかですが、


この『因縁設定』と、なろうテンプレ作品に頻繁に見られる『最初からチート持ち俺最強設定』は実は相性が悪かったりするのです。



◇◇◇◇◆◇◇◇



従来型のファンタジーであれば、序盤に主人公が一度負ける『負け描写』を挟むことで、相手との因縁を印象付けることができましたが、『最初からチート持ちで最強型主人公』は一度たりとも負けるわけにはいけません。


それどころか苦戦することすら許されないのです。


なぜならそれをすると、主人公に感情移入しようとする読者の心を削ぐことになってしまうからです。


そこで多くの場合、桃太郎型のストーリーにみられる『舞台装置としての悪役』を登場させることによってこれを解決しています。


具体的には『ギルドのクエスト』あったり『権力者からの依頼』であったり、または新天地で親しくなった人物(多くの場合ハーレム要員)が元々持っていた因縁を代わりに引き受けるという『代理報復』という形でそれを表現している事が多いです。


ですがこれだけで『最上級のざまぁ』を表現することはやはり難しいということについては第二話の考察で触れた通りです。



◇◇◇◇◇◆◇◇



そこで『追放テンプレ』です。


追放テンプレであれば、主人公はので、追放を受け入れざるを得ず、またその時点ではコテンパンにされても別におかしくありません。


これによって加害者・被害者という『因縁設定』を容易に読者に印象付けることが可能となります。


しかも追放テンプレにおける追放側の言い分を『あえて正当性の欠くもの』とすることで、『追放側が悪である』と印象づけていることを実現しているのです。



◇◇◇◇◇◇◆◇



③ 自由行動は『オリジナリティ』の付与しやすさにつながる


また追放テンプレにおいては、追放される展開まではテンプレを用いつつも、その後の展開については『オリジナリティを付与しやすい』という特徴もあります。


『気づき』によって『実は元から強かった設定』を『追放直後に即発動』させた追放テンプレ主人公は最強であり、かつ組織の成員としての責任に縛られないという実に都合の良い状況となるため、その後の行動は自由となります。


つまり追放テンプレはあくまでも冒頭部分は『理不尽な追放』というテンプレであるものの、その後の展開は他のなろうテンプレと同じく、自由に書けるのです。



◇◇◇◇◇◇◇◆



また重要なのは『追放テンプレ主人公は復讐にも別に縛られない』という点です。


普通に考えれば、最強だと気づいたのだからさっさと報復に向かえばいいところですが、多くの場合、追放され最強になった主人公はスローライフ的な自由行動を謳歌します。


そして自分を中心とする人間関係(要するにハーレム)を形成することに注力し(女の子は勝手にやってくるけど)、復讐の優先度が低いことは明らかです。


そう。意外なことに復讐は最優先事項でもなければ、のです。



――――――― ここまでのまとめ ―――――――


追放テンプレでは『疑似ゼロスタート』によって、登場人物の説明や人間関係の説明を主人公と読者が同じ視点でたどる事ができるため分かりやすい。


また最序盤での『追放』によって分かりやすい被害者・加害者という『因縁設定』を読者に印象づけることが実現している。


追放後の自由行動はオリジナリティの付与を容易にしている。


だから書きやすい。


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