第14話 ツーリング①

昨日の大雨が嘘のように晴れ渡りなぜだか、僕の心も少しだけだが晴れた気がした。僕はバイクでツーリングをしていた。ツーリングとはいえ1人で観光地をふらっと回るだけのもので、目的地も家から2時間程度の近場だ。バイクに乗っていると風を直に感じて寒かったが、それすらも罪の意識からか心地よく感じた。


1つ目の観光地には昼過ぎに着いた。和歌山県で有名な断崖絶壁の絶景スポットだ。そこは柵などないので落ちれば当然死に、自殺スポットとしても有名らしい。


僕は落ちないであろうギリギリの所まで行って写真を撮り景色を眺めていた。すると近くに住んでいる散歩中のおじいさんに話しかけられ、この複雑な形状は打ち寄せる波によってできたということや、地域の歴史について教えていただいた。


波の力ひいては、海の偉大さに自分の小ささを感じるとともに、僕の心も様々な人によって複雑な形状につくられるのか?それとも、僕が誰かの心に複雑な形状をもたらすのか?


1つ目の観光地から帰る途中、駐車場まで歩いていると、道中にあるベンチに腰掛け幸せそうに手作り弁当を食べているカップルがいた。


僕はこの時一目見てすぐに目をそらした。ただ、眩しかった。そこには純愛があった。あのカップルは『それ』がなくてもきっと付き合っていたであろう。そして愛し合っていただろう。


次の目的地である海鮮市場までバイクを走らせた。移動中もあのカップルの眩しさが脳裏から離れなかった。


なぜだ、なぜだ


答えはわからないが、心の奥底では羨ましがり、自分もそうでありたいと思っていたのだろう。そして、まだこの頃は僕の純粋な心は少しだけ生きていたはずだ。


今となっては遠い過去の話のように思えるが……

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