第9話 顔

水族館は思いのほか小さく、1時間程度で回ることができた。僕達は小腹をすかしたので、水族館横のマーケットプレイスに立ち寄り、腹ごしらえをすることにした。マーケットプレイスまでは外の連絡通路で繋がっているため、とても寒く、まなみと繋いでいる手からは単なる温もりだけでなく、まなみの心から発する温かな愛情も伝わってくるようだった。


僕達はたこやき6つとポテカラを買って席に着いた。できたばかりのたこ焼きを2人でほおばりながら水族館で撮った写真を見ていた。


「この写真が一番のお気に入りかなあ」


まなみが見せたのは、水族館のスタッフが撮ってくれた写真で、ジンベエザメをバックに僕とまなみが笑顔で写っている1枚だ。


僕はあの時、なぜこのような笑顔をすることができたのだろうか。なぜなら、隣にいる人は好きではなく『それ』のためだけに一緒にいるにすぎないのに。しかし、そこには誰が見てもまなみを愛している男の顔があった。


僕は単純に作り笑いが上手いのか、それとも皆同じことができるのか。


「海見に行こうよ」


軽食を食べ終えたまなみに誘われ、僕達は海岸線へ向かった。水族館は海辺にあり、海岸線にはクリスマス仕様のきれいなイルミネーションが華やかに演出されていた。そこにはベンチがあり多くのカップル達が聖なる夜を過ごしていた。


僕達は空いているベンチを見つけることができず、隅っこの階段に腰かけた。これでクリスマスの夜、イルミネーション、海岸線、と告白するシチュエーションとしては最高である。

ただ僕に気があればの話だが……


きっとまなみは僕に告白されるのを期待していただろう。

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