第5話 返事

朝のニュース番組ではクリスマス特集が組まれ、雑誌や新聞ではイルミネーションやクリスマスにオススメのスポットなどについて、たくさん記事が書かれていた。そう、クリスマスまで1週間を切ったのだ。


しかし、どうするべきか悩んでいた僕は微妙と答えたまま、きちんとした返事をまなみに伝えていなかった。おそらく、クリスマスにデートをすればまなみに告白されるだろう。恋愛経験0の僕だがそこまで鈍感ではなく、まなみの気持ちを察することができる。


僕は告白にどう答えるべきだろうか……


もし付き合えば周りからどう思われるのだろうか……


人生初の彼女で初体験の相手になろう女が、非処女かつ、中学生時点で遊び人だったまなみでいいのだろうか……


どれだけ考えても答えは見つからなかった。あの日あたかも好きであるかのように振る舞おうと決めた僕だが、僕の心はそれほど単純ではなく竹のように綺麗に割り切ることができていなかった。それに、中途半端な純粋さも持ち合わせており、まなみに対しては常に心の奥底で謝っていた。


「結局クリスマスって会えるの?」


自転車を漕ぐまなみの表情は不安げだ。


ついに、来たか


僕は未だ答えを見つけていなかったが、自然と口が動いてしまった。


「会える」


僕の言葉を聞いた瞬間、まなみの不安はどこか遠くへ消え、とても嬉しそうな表情に変わった。


「やったー!クリスマス楽しみにしてるね」


その姿を見た僕は強い罪悪感を覚えた。まなみは僕のことを本気で好きでいるだろうに、僕といったら好きではないが、童貞を卒業したいという気持ち、『それ』に支配された男にすぎない。


結局は『それ』が決め手だった。クリスマスまでの間まなみはいつもより上機嫌だった。僕が微妙と答えて以降、少し寂しげな雰囲気を出していたが今ではそれを感じさせることはない。


それになぜだか色気が増したような気もした。

もしかすると僕の早くまなみと『それ』をしたいという気持ちがそう感じさせたのかもしれない。


それとも、まなみが放つ独特のフェロモンが僕の脳を騙していたのか……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る