第4話 悔

季節は12月に入り1年の終わりが近づいてきた。この時期になるとあれほど食欲旺盛だった魚も口を使うことを嫌い、釣竿はすっかりクローゼットの奥だ。そして、繁華街では年末に向けてイルミネーションが華やかに演出されている。しかしなぜだろう、それらだけではなく、道行く人までもが僕の目には寂しく映る。


僕の所属していたテニス部は積極的に他校と練習試合を行っていた。僕は中学生の頃に市大会でベスト8に入ったことや高校1年生の新人戦で準優勝したこともあり他校でも少し有名だった。そのおかげで友達も多く、他校の部活動に1人で参加したこともあった。


今日はまなみと同じ中学に通っていた友達が多く所属している高校と練習試合をした。僕はまなみのことで少し気になっていたことがあり、それらを少しでも知れたらと思い、彼らにまなみのことについて聞いてみた。


僕はこの日の晩聞かなければよかったと後悔したのを覚えている。なぜなら、良い話など全く無かったからである。


「まなみは男遊びひどかったなあ」


「なんかエロかったし、

確か……ヤンキーの先輩と付き合ってたと思う」


「すぐ股開く尻軽女のイメージしかないわ」


「スカート1番短かったし、キスマークよう付いてたわ」


これら全ては童貞の僕にとって暴力以上のものであり、まなみをまるで汚物のように感じさせた。


男性の読者には共感していただけると思うが、当時童貞の僕は処女以外は嫌だという幻想の様な何かに取り憑かれていた。


22歳になった今はなぜそこまで処女を神格化していたのかが不思議である。しかし当時はそうだった。胸の奥で熱いような冷たいような何かを感じ、怒りではないが嫌な感情を覚えた。当然その日はまなみにメールの返信をすることができなかった。


翌日の通学時には平静を装っていたがまなみの勘は鋭かった。


「何かあったの?」


「何もないで。いきなりどうしたん?」


「なんとなく、何かあったのかなって思って……」


僕は平静を装って他愛もない話をしていた。それから数日というもの、好きではない人になぜこのような感情になるのかと考えていた。恋をしたことのない僕はもしかするとこれが恋なのかと思ったりもしたが違う気もしていた。


確かな事はまなみが処女ではなかったことに動揺していたことだけである。


当時の僕はまだ子どもだったのだろう。色々な世界を見た今では全てに疑い深く、人を信頼できず、愛を信頼できず、自分すら信頼できない。女性のことで何を話されてもきっと動揺しないし、もし今付き合ってる彼女が浮気をしたとしても落ち込むことはないだろう。


これを成長と呼ぶのか……

それともクズになっただけなのか……


僕は潮の匂いの混じった風を受けながら釣竿を握りしめ、水面に浮かぶ電気浮きをぼんやりと眺めながら自己に問いかけていた。

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