「また会いに来たよ」

野森ちえこ

今でよかった

「なんだい、また来たのかい」

「うん、また来た」


 もうすぐ、おばあちゃんはいなくなる。

 一か月はもたないだろうってお医者さまに言われている。


 仕事人間の両親にかわってあたしを育ててくれたおばあちゃん。おばあちゃんがいてくれたから、あたしはさびしくなかった。いや、そうじゃない。おばあちゃんがいてくれたから、さびしくてもがまんできたのだ。

 友だちとケンカした時も、はじめて好きな人ができた時も、いつだっておばあちゃんがいてくれた。ずっとずっと、あたしのいちばんの味方でいてくれた。


 そのおばあちゃんが、いなくなる。


 目をさましている時間が、日に日に少なくなっていく。その少ない時間。目をあけた時にあたしがいると、おばあちゃんはとてもうれしそうに笑ってくれる。

 口では迷惑そうに「また来たのか」とか「デートする相手もいないのか」とか言いながら、とてもとてもうれしそうに笑うから、あたしは毎日一分でも、一秒でも長く、病院のベッドで眠るおばあちゃんのそばにいる。


 ひまな大学生の『今』でよかったと思う。受験がおわって、就活もまだ先。ほんとうは、ずっとずっとずっとずーっと、長生きしてほしいけど、就職して社会人になったらきっとそう簡単に休めない。だから、よかった。いちばんおばあちゃんのそばにいられる今で。きっと、きっと、今でよかった。



 ――だから、お願い。


 おばあちゃん。……おばあちゃん。


 目をあけて。今日もまた憎まれ口をきいてよ。「また会いに来たよ」ってあたしに言わせてよ。


 ねえ、おばあちゃん――。



     (了)



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「また会いに来たよ」 野森ちえこ @nono_chie

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