複雑に交錯する想いと願いは、何処に向かうのか。

海を駆ける「ロワールハイネス号」という小さな縦帆船(スクーナー)を巡る物語です。

主人公であるシャインは、若くして海軍の士官となり、家柄も申し分ない、ある意味恵まれた境遇の青年。
ですが、彼にはその家庭環境故か、何処となく陰りが感じられるのです。
実直で飾ることのない爽やかな好青年の表情の裏に、見え隠れする仄暗い感情。
細やかな心情描写によって、読み手は自然とシャインの二面性に惹きつけられることでしょう。

そして、そんな彼を支えることになる二人の人物は、反面とても真っ直ぐにシャインを見つめてきます。
船の精霊、レイディ・ロワールは天真爛漫な立ち居振る舞いでシャインの心を癒してくれます。
シャインの右腕となる海軍士官ジャーヴィスは、不正を憎む潔癖さと嘘をつけない誠実さで彼の上官を補佐します。
この二人がいればきっと、シャインは苦難を悩みながらも乗り越えていけるのだ、と信じることができます。

彼等のような主要キャラクターは勿論なのですが、他の全ての登場人物が、それぞれの信念や思惑を抱いて行動します。
それを描き切る作者様の文筆力には頭の下がる思いです。
本作は海洋ファンタジーと銘打たれておりますが、心躍るファンタジー要素もさることながら、深く考えさせられる人間群像劇として読み応えのある物語です。
強く強くお勧め致します。

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