エピローグ

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  数日後、校内新聞に【善と悪。学園に蔓延る地縛霊と悪のヴァンパイアを倒した、美術室の美男子幽霊!】と大きな見出しが躍った。


『けしからんな。何だよこの記事。俺のことが全然書いてねぇじゃん。新種のヴァンパイアを倒したのは俺だぜ』


 ハカセは不満を口にし、新聞を吹き飛ばす。


『仕方ないよ。本橋の存在も平沼養護教諭の存在も、地縛霊が化けた転校生の存在も、洗脳されていたみんなの記憶から、消えてしまったんだから』


『チェッ。つまんねーの』


 俺は吹き飛んだ新聞を掴む。


『ハカセよく見ろ。南仏中学校、学校の怪談ベストスリー『第二位、化学室のヴァンパイア』と書いてあるよ。一位は俺だが……、三位は……』


 ハカセが新聞を覗き込む。


『保健室の女幽霊? 誰だよこれ? お前逢ったことある?』


『さぁ……? 知らないな。新参者か?』


 俺達は顔を見合せた。


 ――深夜、ハカセは保健室の女幽霊の存在を確かめるために、保健室に忍び込んだ。


 簡易ベッドに潜り横たわっていると、不意に誰かが馬乗りになった。


『お前は何者だ!』


 ハカセをヴァンパイアと知らず、首に噛みつこうとした女子。


 同族にしては、あまりにも無知だ。


『お前は何処からタイムスリップしてきた? 中世のヨーロッパか? 顔を見せろ』


 女子はぶるぶると首を振る。

 人間の生き血など、一度も口にしたことはなく、空腹で声も出ない。


『腹が減っているなら、俺が生き血に代わるドリンクを分けてやるよ。イチゴ味だけどな。

 だが、その前に名を名乗れ。その制服は……。南仏中学校だよな。お前はこの学園の生徒だったのか?』


『……カミカワ……ナツキ』


【学校の怪談、第三位。

 ―保健室の女幽霊―

 保健室の簡易ベッド。

 そこで休んでいると、学校で不慮の死を遂げた女子生徒の幽霊が現れ、生き血を欲しがる。

 だが、女子生徒は不器用で、人間に噛み付くことが出来ない。

 女幽霊は、太陽を恐れぬ新種のヴァンパイアに吸血されたが、ヴァンパイアになりきれず、幽霊の姿でこの世をさ迷っている。


 女幽霊の名は……

 カミカワナツキ】


 新たな学校の怪談。


 ◇◇◇


 ―同年・冬―


 美術室の壁に新たな人物画が加わる。


 彫りの深い顔立ち。

 透き通るような肌。

 夕陽に染まるオレンジ色の髪。

 その背中には天使のような白い翼。


 ―秋の絵画コンクール・特別賞―

 【美術室の美男子幽霊】風見流音。


『ていうか、美化し過ぎじゃね?』


『ハカセ、何か文句があるのか?』


『やっぱアレだな。大賞獲るには俺様がモデルじゃないとムリだな』


 廊下をドタバタと走る靴音がした。

 勢いよく開いた美術室のドア。

 最強で可愛い十人目の少女の登場に、俺達は顔を見合わせて笑った。




 ―THE END―

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美術室の美男子幽霊と十人目の少女 ayane @secret-A1

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