第3話 彼女の強さ
ゴズイ先輩と戦ったその翌日。僕は護衛の任務を遂行するために女子寮に向かった。
時刻は7時45分。少し早かっただろうか。
僕はタブレット端末を取り出し、電源を入れる。そして学園ニュースを見ると、1番上に僕とズゴイ先輩の対戦の記事があった。
編集はもちろん龍双。
【水蓮寺刀夜、ズゴイ・ゼルログに圧勝!】
と、デカデカと書かれていた。動画を見てみれば僕が加速し過ぎて止まれず、無様に転がりまくった場面はカットされている。
まあほんとかっこ悪かったからいいけど。
僕はコメント欄までスクロールする。
[8重って(笑)やばすぎん?]
[世界記録が9だっけ?]
[そそ。マジパネェ]
[《神装印》はあれだけど、この強化魔法バフの性能ならウォーゲーム優勝いけんじゃね?]
[噂では弱体魔法デバフもできるらしいよ]
[まじか惚れるかもだわ(笑)]
[イケメンだな]
[イケメンってゲイ用語らしいぞ]
[え?知ってるよ?]
[知っててそれチョイスしたのか。たまげたってレベルじゃねえ]
途中から全く関係のない話題になっていたのですぐに閉じる。そして辺りを見回す。別に
しかしサラさんの姿はなく、あったのは女子寮の管理人であるおばちゃんの姿だけだった。しかも異様に近いし。
「サラちゃんのストーカーは君なのか?」
「え?あ、いや、違いますけど」
そう言ったものの、それで疑いが晴れるとは思えない。なんならさらに疑われているまである。どうしたものか。逃げるのは得策ではないことしかわからない現状だ。
「刀夜君」
「あ、サラさん。おはよう」
「サラちゃん知り合い?」
「はい。ちょっと護衛を頼んでて」
「そうなのね、疑ってごめんなさい」
「いえ、大丈夫です」
そう言うと満足そうに事務室に戻って行った。
「じゃあ行こうか」
サラさんはそう言って歩き始める。僕も置いていかれまいとついて行く。
「5分前でよかったんだよ?来るの」
「そうだね。女子寮の前に男がいたら悪目立ちするのは予想できたことだったよ」
でもまあ、明日からは大丈夫だろう。明日もこれが続いてればだけど。
「刀夜君。今日も訓練できる?」
「あー、うん。暇だし大丈夫だよ」
「じゃあ昨日と同じ場所でね」
「わかった」
「今日は魔導人形相手に連携の練習をしようと思うの」
「いいと思うよ。相性良ければいいね」
「う、うん。そうだね」
何気ない僕の一言でサラさんはそっぽ向いてしまう。何かおかしい事でも言っただろうか。まあ、いっか。
「ストーカーの件だけど、ついぐらいからなの?」
「んー、1週間前くらいかな。登下校の時とかに誰かついてきてる気がするんだよね」
「昨日も?」
「うんん、昨日は多分いなかったかな」
「今は?」
「今もいないと思う」
「んー、警戒されてるのかな」
「このまま何にもなければいいんだけどね」
このご時世、そうはならないだろう。でも、何もないに越した事はない。だから願わずにはいられないのだ。
「そう、だね」
僕はそう
***
放課後。僕はサラさんに遅れる旨を伝えてから、理事長室へ向かった。
「失礼します」
「よ、すまないな。突然呼び出して。すぐ終わるから安心してくれ」
「はぁ、それで?」
「サラ・ヴァイスハートの護衛をしろ」
意外過ぎることを言われた。
「……何故、それを沙貴音さんから命令されるんでしょうか」
「すまないが言えない。とにかく目を離すな。夜中とかお前が護衛できない時は私が使い魔でも使って監視する。その際、お前に連絡が行くようにしておこう」
「…わかりました」
「理解が早くて助かる」
「理解なんてしてないです。では」
「ああ、頼む」
僕は沙貴音さんが目を伏せたのを横目に理事長室から出た。これから何が起きるというのだ。不安だが、サラさんに勘付かれてはいけないだろう。
とにかく、急いで昨日と同じ場所に向かおう。
第20訓練所に入るとサラさんは既にストレッチをしていた。
「サラさんおまたせ。すぐに着替えてくるよ」
「うん、わかった」
僕は更衣室に急いだ。
2分ほどでトレーニングウェアに着替え、更衣室から出ると、既に魔導人形と戦っていた。
終わるの待つか。
程なくして、サラさんの演習が終わる。そのタイミングで声をかけた。
「サラさん」
「ん、じゃあやろっか」
「ああ、うん」
早速、サラさんはスタートボタンを押す。するとモニターに10と表示され、9、8とカウントダウンが始まった。
「まずは私が刀夜君に合わせてみるから」
「了解」
と答えたものの、果たして上手くいくのだろうか。懸念の消えぬまま、カウントがゼロとなった。
***
「刀夜君の動きが予測できないんだけど…」
「なんかごめんね?龍双にも同じこと言われたけど、そこまでなのか」
「組んでたの?」
「去年沙貴音さんにちょっとしたお使い頼まれた時にね」
「その時どうやって連携取ってたの?」
「んー、どうって聞かれるとよくわかんないけど、サラさんは僕を見すぎなんだと思う」
「べべ別にそんなに見てないよ!」
「ここで動揺されても困るよ。とにかく、あまり気にしすぎないで。僕が射線に入ってても撃っていいから」
「わ、わかった」
サラさんは頷き、スタートボタンを押した。
ああ言ったが、龍双は僕と同じ様な自己強化魔法をつかって戦うタイプだから戦い方が似ていると言えば似ていた。でもサラさんは違う。考えろ、自分の実力を発揮しつつサラさんの実力を、レンジの自由度を活かすには?
僕は加速により機動力を高めても流石にロングレンジはきついし、サラさんから離れてはいけない。ならば僕がクロスレンジまでをメインにし、それより離れた敵をサラさんの精密射撃で。
…これ、どうやって実行する?もしサラさんがオールレンジを2人でとなると必然的にサラさんの仕事が増える。
いやまあ、なんとかなるか?
カウントが0になる。
16方向から複数の魔導人形。それをサラさんが10機の浮遊砲を連射。数が減って、クロスレンジに入った魔導人形を僕が処理する。考えないようにと言ったが、サラさんは考えてくれたようだ。おかげで苦戦なく最後の1体が沈黙した。
「上手くいったね!」
「うん。ありがとうね」
「ん?何が?」
「いいや、何でもない。…サラさんは何で戦うんだ?」
僕がそう訊くとサラさんは1度首を傾げ、にこりと笑った。
「役に立ちたいの。私を育ててくれた、家族同然の人たちみんなに。そのためには、誰にも負けない強さがいるの。だから戦うんだ、強くなるために」
サラさんには、明確な理由がある。彼女の過去を僕は知らないが、そう思うほどのことがあったんだろう。彼女の強さの根端は人を想う気持ちにあるのだろう。
僕にはないものだ。僕を引き取ってくれた家族はいる。だがそれは戦う理由ではなく、生きる理由になっている。
「そっか。強いんだな、サラさんは」
「ん?刀夜君私に勝ったじゃん」
「そういうことではないんだけど、まあいっか。まだ続ける?」
「うん!あと1回やっとこ」
結局1回で終わらなかったのは、また別の話である。
それからしばらく放課後は連携の練習をした。サラさんと共に訓練するのが日課となりつつある。そんなある日の昼休み。突然サラさんからメールが届く。
[生徒会に用があるから今日は中止でいいかな?]
何が、とは聞かない。わかりきっていることだ。僕は構わないよと送り、仮眠をとることにした。
***
生徒会に用か。何らかの手伝いだろうか。何か手伝える可能性があるな。無くても残りのメンバーについて聞いておきたいことがある。とりあえず行ってみることとした。
2回ノックする。
「どうぞー」
「…?龍双?」
僕は扉を開ける。すると中には龍双と生徒会長の五月雨八雲さんがいた。黒縁の眼鏡をかけ、黒髪を揺らしこちらを見た。その際に豊満な胸が大きく揺れる。
「刀夜?どうした」
「サラさんはきてないか?」
「………」
「………」
「八雲さんはまだしも龍双、お前は白々しい」
「ぐ、ですよね」
龍双はあははと笑い、八雲さんを見る。まるで言っていいかと、許可を取っているかのように。
「どうぞ。そもそも、そのつもりよ」
「んじゃ、八雲ちゃんから聞いた話、そして俺が調べた情報。全て話す」
語られるは、まずサラさんに届いた手紙の存在。それを見たサラさんは顔面蒼白といった表情をしたこと。そして人気がない場所に呼ばれたであろう予測。
「待てよ。そこがどう繋がってるっていうんだ」
「それを、今から言うんだ。前置きしておくと、隠し事はしない。サラちんの心臓には、多額の懸賞金が、密かにかかっているんだよ」
「は!?何でサラさんにそんな!?」
思わず1歩前に出て叫んでしまう。その様子を見た龍双が申し訳なさそうに俯いた。
「何故か、そこまではいくら探しても情報が出でこなかった。すまん」
「あ、いや、僕も取り乱した。続けて」
「それに最近になってそういう業者の動きが活発になっててな。加えてサラちんを育てた親?が今この関東区画にいる」
「だから、その人を人質にお引き出せばサラさんが確実に来る。絶好の機会と言っても過言ではないってことか」
「そういうこと。そんでもって今から20番街のスラム区域に行こうと思う。壁の外はサラちんが出れない。そう考えるとスラム区域が可能性が高いわけだ」
なるほど、一理ある。ならば早く行かなければ。
「待ってくれ刀夜」
「ん、何だ?」
「いつまで芋ってる気だ」
「は?」
「今のお前で、サラちんが救えるとでも思ってんのか?」
「…」
「無理だよ。行こうぜ八雲ちゃん」
そう言って龍双は走って出て行った。八雲さんも僕の方をチラと見て、龍双を追った。
わかっているさ。そんなこと。ああ、そうだな、いい歳して逃げ過ぎていた。
僕は左手に刻まれた刻印を浮かばせる。右手にある、《白夜烏》出はなく。
「また、力を貸してくれ。『俺の闇』」
ああ、今の僕はどんな顔をしてるだろうか。きっと、ニヒルな笑みを浮かべているだろう。
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