第7話 いざ修行に

土日休み明け、僕はいつも通り5時に起床した。ウォーゲームの件、サラさんと何も話さないまま今日を迎えてしまった。

と言っても、僕は出る気でいる。彼女が僕にまだ手を差し伸べてくれるのならば。まあとりあえず日課の朝のトレーニングに行くとしよう。僕はトレーニングウェアに着替え、寮を出た。


***


朝日の眩しさを感じ、私は目が覚めた。時間は7時半過ぎ。少し遅めの起床であった。起き上がるとふにとした感覚を感じる。そうか、エリーちゃんと一緒に寝てたんだった。私はエリーちゃんを起こそうと毛布を剥ぐ。

現れたのは、銀髪の……幼女だった。


「……んんん???」


「ふぁあ、おはよぉさら」


「んんんんん!?!?」


私は動揺を隠すことができず、速攻で刀夜君に連絡をした。


「刀夜君……助けて!?」


***


突然かかってきた電話。特に詳細もなく助けてとだけ言われた。切迫した雰囲気を感じたので僕は全速力で女子寮に向かった。

と言っても、僕は中に入れないわけだが、どうすればよいのやら。


「水連寺君よね?」


突如声をかけられて、少しびくつく。振り返れば女子寮の管理人のおばさんであった。


「そうですが」


「サラちゃんに聞いたわ。ついてきて」


「あ、はい!」


おばさんに連絡できているということ、そしておばさんから切羽詰まったような声音がないことから、そこまで危険はないのだろうか?いや、そんな考え方は軽薄。様々な最悪のパターンを念頭に置いておこう。

おばさんは、こんこんとサラさんの住んでいる部屋をノックする。すると、ぎぃっとドアが開く。サラさんの足に、幼女が引っ付いている。


「えっと、おはよう。サラさん、エリー」


「え?エリーちゃん?」


サラさんは驚愕の表情に染まる。僕とエリーを交互に見て、クエスチョンマークがたくさん出ているのを感じられた。ああそうか、説明しないといけないな。


「エリーのことで説明するよ」


僕はなるべく簡潔に、エリーには体変化の特異体質があり、魔力を消費して大人の姿を保つこと。何もしなければ3日で保つための魔力がなくなり、本来の姿である幼女の姿になること。


「な、なるほど、そうなんだ……」


「戻るのが早いのは僕とのあれでね」


エリー自身に僕と戦った記憶にないため、言葉を濁して言うとサラさんはうんうんと頷く。


「まあとにかく、今日は僕の血を与えるか……今日中に血液パックを買っておかなきゃなあ。大きなタオルあるかな?」


「あるよ。これでいいかな」


「うん、おっけーだよ」


僕は大きなタオルエリーに巻いて、《弧月》を顕現。手首を少し斬る。そして溢れる血を、エリーは啜った。1分ほど経つと、エリーの体は、変化を起こして大人の姿になる。


「ありがと、トー君。これでしばらく何とかなるよー」


「よかったよ。じゃあ、僕は出てくね」


「あ、刀夜君、寮前で待っててくれない?少し話したいことがあるから」


「ああ、わかった」


きっとウォーゲームのことだろうと思う。ならば待たないという選択肢は存在しない。僕は寮を出て、入り口近くの柱にもたれかかる。しばらく待っていると、とたとたと、足音が聞こえる。

見れば、制服姿のサラさんとエリーがいた。


「……ん?何でエリーが制服姿?」


「ああ、それはね、私が沙貴音さんに相談してみたの。入学させれないかって」


「なるほどね。まあ入学するってことは自陣の戦力が増えるってことだし、エリーはとびきり強いから、その点を見てって感じか」


「そうそう。それに、これでエリーちゃんをウォーゲームに誘えるし」


「ん?何それ!」


エリーは速攻で食いつく。するとサラさんは僕をちらと見てから、エリーの方を見た。


「簡単に言うとどんぱちして1番を目指すの。優勝したら金ピカのトロフィー貰えたりするよー」


「出たーい!金ピカ欲しい!」


「でもね、3人1組じゃないと出れないんだ」


「え、トー君は?」


「何でか渋ってるの」


ああ、なるほどね。エリーを味方につけてウォーゲームに出そうって作戦なのかな。そんなことしなくてもいいのに。


「何考えてるかわかったから言うけど、僕は出るつもりだよ、サラさん。一緒に戦うよ」


「本当?」


「ああ」


「やたー!これで出れるよ、エリーちゃん」


「こりゃ金ピカ確定だねー」


ワイワイと、賑やかなで楽しそうな2人の声音に、自然と頬が緩む。サラさんの『心臓』のことを知るのは、後でも構わないだろう。僕はただ、もっと彼女たちの側にいたい。


***


「エリーシャルロット・アークフェルトでーす。みんなよろしくね。一応吸血鬼です」


朝のホームルーム。エリーが自己紹介を終えると、男共が歓喜の声を叫び始める。やかましいったらありゃしない。

エリーは先生の指示で俺の隣の席に座る。その刹那、親の仇のような目線を向けられる。全く、酷い仕打ちだ。恐らく沙貴音さんがエリーの管理を僕に丸投げしたんだろう。別にいいけどさ。


「賑やかだね、トー君」


「まあ、うん。いつもはもう少しおとなしいんだけど」


「へー、そなんだ」


「ま、トーくんの隣でよかったよ。サラちゃんには悪いけど」


ん?何故サラさんの名前が出てくるのやら。まあ別にいっか。

僕は気にせず、授業を受けた。

放課後になると、いつも通りの訓練を行う。魔導人形の強さを沙貴音さきねさん頼んでやばいくらい強くしてもらった3体を相手に実戦練習をしている。沙貴音さん曰く、僕の義父さんの戦闘データをコピーしたようだ。そのせいか、サラさんの砲撃がことごとく避けられる。


「当たんない……」


「回避性能が高いからね。でもそのまま、安易に近づけないように牽制するだけでも意味はあるから」


「うん!」


「エリーはそのまま近距離で戦ってくれ、大きな一発は要らないから確実に当てて行こう。チャンスがあれば少し強く行っていいよ。カバーするから」


「りょ!」


魔導人形は巧みに波状攻撃を仕掛けてくる。それを僕が捌いてエリーが攻撃の手を繰り出す。サラさんは援護射撃と牽制射撃を行う。そろそろフィニッシュを決めたいのだが、どうする?


「ッ…サラさん、接近戦闘に持ち込もう。この相手に対しては、オールレンジで対応するより、クロスレンジかロングレンジ、どっちかに集中した方がいいと思うから」


「わかった!」


「んでエリー、魔導人形を1、2に分散させれるか?」


「よゆーだね」


「おけ、じゃ分散したら2体を僕が抑えるから1体を撃破してくれ。数的有利を取って畳みかけよう!」


「「了解」」


エリーがすぐにモーションを起こす。まず天に向けて一矢放つ。そして一拍おいて前方に放った。天に向けて放たれた矢は上空に魔法陣を発生させ、無数の矢が降り注ぐ。エリーはその一本一本を正確に操りわざと避けさせて、距離を開けさせ、最後の一矢で完全に分散させる。

そうなることを確信していた僕は矢が降り注ぐ途中から駆け出していた。そして分散されたと同時に魔導人形2体に斬りかかる。

その間に、エリーが弓を捨て最大速度で接近。サラさんの方向へぶっ飛ばす。それをサラさんが10機の浮遊砲をソードスタイルに変え、切り裂く。流石だ。

おっとしまった、余所見してしまった。ギリギリで防ぎ、弾いた所で右に少し避けると、左側からエリーが駆け抜け、渾身のストレートで胴体に穴を開ける。あれぇ、魔導人形ってあんなに脆いっけ?いや、エリーが強すぎるだけか。

残り1体は堅実に、追い詰めて難なく撃破。実践訓練を終えた。


「なんとかなるもんだな」


「そうだね。さて、ちょっと休憩しよっか」


「やったー!喉からっからだよー」


エリーは水筒を掴み取り、ごくごくと喉を鳴らす。あれ?それ僕のじゃね?


「ねえエリー?それ、僕の」


「ん、わかってるよ?ウォータークーラーの所まで行くの面倒くさいんだもん」


「ああそう、なら返して。僕も喉乾いてるから」


「ん、はい」


エリーはキャップを閉め、投げ渡してきた。それを僕が飲むと、横からあっという声が聞こえてきた。その方を向くと、サラさんが口元を押さえていた。


「こほん、それで刀夜君」


「ん?何かな?」


「ゴールデンウィークにもうすぐ入るけど、予定ある?」


「あー、うん。ちょいと実家に帰るかな」


「実家って、水蓮寺本家?」


「うん。顔見せるのと、修行を兼ねてね」


「それに私も参加することはできるかな」


サラさんは首をこてっと傾けて、問いかけてくる。何だかあざと可愛い。いやじゃなくて。


「多分大丈夫だと思うけど、どうして?」


「んーとね、ウォーゲームの訓練になるかなって思って。ゴールデンウイーク期間中も何日か訓練したいなって思ってたし」


「ああ、なるほどね」


サラさんらしいと思う。まあ、言ってることはわかるので、連絡してみるか。


「じゃあ、聞いてみるね。エリーは来る?」


「うん!」


「おけー」


さて、義父さんは今忙しいだろうから、義母さんに電話するか。連絡帳から義母さんを探し、電話をかける。数コールしたのち、コールが止まった。


『はあい、もしもし~』


穏やかな、間延びする声音が聞こえる。僕の義母さんの水連寺雪菜さんだ。


「もしもし義母さん、刀夜です」


『ああ、刀夜君~。どうしたの~』


「ゴールデンウィークのことなんだけど、友達二人連れてきてもいいかな。ウォーゲームのメンバーでさ」


『ああそういうことね~。いいわよ~、お父さんにも伝えておくわ~』


「ありがとう、それじゃあね……おっけーだよ」


手でおっけーとサインを出すと、サラさんはパッと明るい表情を見せた。そんなに修行したかったのだろうか?まあ確かに、義父さんの修行はレベルアップできると評判がいいが。


「ゴールデンウィーク初日からだけど、大丈夫?」


「うん!」


「わかった。じゃあ10時出発だから、9時50分くらいに女子寮前に迎え行くね」


「うん、わかった!よし、続きしよう!」


「ん、了解した」


この後何故かめちゃくちゃ訓練した。


***


パチリと、目が醒める。時刻は午前5時。いつも通りの起床だ。

今日からゴールデンウィークとなり、僕とサラさんとエリーで僕の実家に行く。

と言ってもまだ5時間もある。とりあえず朝のトレーニングに向かうとしよう。

外に出ると何故かサラさんとエリーがトレーニングウェアを着てスタンバイしてた。


「どうしたの?こんな朝早くから」


「んーとね、刀夜君朝トレーニングしてるでしょ?試しに付き合ってみようかなって」


「……全部?」


「え?一応」


「んーとね、かなりハードだと思うから、無理しないでね」


「わかった!」


「じゃあまず、準備運動からしよっか」


せっせと、筋肉をほぐしてく。まあ、何だかんだでついてこれるだろう。

そう思っていたが、見誤ったことにすぐ気付くことになる。


「き、きつい…」


開始1時間。サラさん息を荒げている。無理もないだろう。途中に休憩を挟んだと言えど、ランニングからの追い込みダッシュを終えたところだ。普段のランニングに追い込みダッシュは誰でもきついものだ。

まあ、疲れてない人が1人いるが。


「もうバテたの?サラちゃん」


「エリーちゃんは……体力、ありすぎなの……」


「吸血鬼ってこともあるけど、その中でもエリーは多いんだ」


「そう、なんだ……」


「とにかく、もう休んでて。どの道今日は走って素振りするだけにしとこうと思ってたことだし」


「うん、そうする」


「ボクもさぼるー」


エリーがサラさんにべったり抱きついてだらける。汗で濡れたまま絡む二人の女。うん、文章にしたらいけないやつだったわこれ。別の意味に聞こえる。

そんな適当なことを考えながら、僕は木刀を振った。

時間は経ち、9時50分。野暮用で沙貴音さんに会いに行っていた僕は、ギリギリ到着する。


「お待たせ、ふぅ、ギリギリか」


「おつかれ、刀夜君。何の用だったの?」


「あー、いや、大したことじゃないよ。義父さんへの伝言預かっただけ」


「そっか、じゃ、行こ?」


「そうだね。出席だ」


「「おー!」」


2人はぐっと腕を上げて、楽しげな様子を見せる。

まず、バスで駅に向かう。最寄り駅はバスで10分かかるのだ。電車では1時間程かけて実家の最寄り駅に着くが、そこからは山。登山をすることになる。電車の中では、サラさんとエリーは眠りこけている。サラさんは案の定疲れで。エリーはいつでもどこでも寝れる体質なので、サラさんに合わせて寝てしまった。僕は放置ですか。まあいっか、寝顔が見れて得したし、山登りのための体力回復もしてほしいし。

僕は本を取り出し、暇を潰した。

しばらくして、目的地が近くなったので2人を揺り起こす。


「サラさん、エリー、起きて。もうすぐ着くから。ていうかそうこう言ってるうちに着きそう」


「起きてるからー」


「エリー、その生返事は覚醒しきってないでしょ」


「ん、おはよう刀夜君」


「ああ、おはよう」


電車は減速を始める。その揺れで2人が覚醒仕切ったようで、揃って伸びをする。何だか姉妹みたいである。少し微笑ましい。


「ここからどのくらいで着くの?刀夜君」


「んー、30分くらい山登ったら着くよ」


「それはちょっと気合い入れないとだね」


胸の前でぎゅっと2つ握り拳を作り、気合いを入れる。


「そうだね。最後に石段が千段くらいあるし」


僕が言った何気ない一言はサラさんの笑みを痙攣らせる。でも仕方ないのだ。登らないと、実家には着かないのだから。


「行くよ、サラさん、エリー」


「う、うん!頑張る!そしてあわよくばご両親に挨拶を……」


義父さんか義母さんのファンとかかな?2人は有名だし。まあいいか。僕は気にせず歩を進めることにした。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る