風を呼び起こす静謐な情熱と、身体を駆け抜ける空気の鼓動

間や息遣い、耳に響く音。
ただぶつかり合うからこそ生命が輝いて見える素敵な作品でした。
こちらは『生きた人間』の闘いのシーンを描くためのバイブルです。

三つ、特に素敵だと感じたシーンを紹介します。

◉竹割り(過去・現在)
何気なく挿入されているシーンながら、作品を読み進めるうちに「竹割りを通して、身体の使い方や自分との向き合い方の基本を教えてくれたのは父だったのか」と感じました。
不器用で人一倍習得に時間のかかった主人公と父のやり取りをじっと目に焼き付けて、その先を読み進めて欲しいと思います。

◉彫刻
暇つぶしに装備品に粋な計らいをするシーン。
ふとした闘いの合間に挿入するエピソードとして、とても微笑ましく、記録に残るようなことではないけれど、そんな風に過ごしてそうだなあと鮮明に心に残る素敵な時間でした。

◉好敵手との行く末
邂逅、再会、決着。仕合を交わしていた頃が懐かしくなるような死闘。
その決着は決定的でありながら、その先の時間の在り方は読者に想像の余地を残してくれています。それも含めた分岐に、心地良い余韻を感じました。

生活の中の小さな幸せ、人と人の交流、時代背景がもたらす不条理。その中で生きている。そういったものが濃厚に凝縮され、作中の人物の存在が現実味を帯びてくるような素晴らしい作品でした。

是非、多くの方に読んでいただきたい作品です。

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