間や息遣い、耳に響く音。
ただぶつかり合うからこそ生命が輝いて見える素敵な作品でした。
こちらは『生きた人間』の闘いのシーンを描くためのバイブルです。
三つ、特に素敵だと感じたシーンを紹介します。
◉竹割り(過去・現在)
何気なく挿入されているシーンながら、作品を読み進めるうちに「竹割りを通して、身体の使い方や自分との向き合い方の基本を教えてくれたのは父だったのか」と感じました。
不器用で人一倍習得に時間のかかった主人公と父のやり取りをじっと目に焼き付けて、その先を読み進めて欲しいと思います。
◉彫刻
暇つぶしに装備品に粋な計らいをするシーン。
ふとした闘いの合間に挿入するエピソードとして、とても微笑ましく、記録に残るようなことではないけれど、そんな風に過ごしてそうだなあと鮮明に心に残る素敵な時間でした。
◉好敵手との行く末
邂逅、再会、決着。仕合を交わしていた頃が懐かしくなるような死闘。
その決着は決定的でありながら、その先の時間の在り方は読者に想像の余地を残してくれています。それも含めた分岐に、心地良い余韻を感じました。
生活の中の小さな幸せ、人と人の交流、時代背景がもたらす不条理。その中で生きている。そういったものが濃厚に凝縮され、作中の人物の存在が現実味を帯びてくるような素晴らしい作品でした。
是非、多くの方に読んでいただきたい作品です。
舞台は奈良時代、ヤマトとよばれる古の日本。
作者が研究課題にしていた史実をテーマにしたというだけあって、当時の景色、時代が色濃く描きだされています。
個人の思いではままならない政治のうねりの中に、流され、もまれながらも精一杯生きる人々。人が人と出会う時、友情が生まれ、愛情が生まれ、また、葛藤が生まれ・・・熱いドラマが生まれます。
肌と肌とでぶつかる格闘技を通して、心を通わせていく描写がまたすばらしい。登場人物一人一人の想いが伝わってくるとき、心がゆさぶられずにおれません。
人々の強さと優しさと潔さとが息づく古代歴史ロマンをあなたも味わってみませんか?
おすすめです。
奈良時代の南九州に住まう土着民族「隼人」。
ヤマトに帰順した彼らのひとりである阿多のカザトは、同じ隼人の別部族であり共に帰順していた大隅の反乱を制圧する軍の使者として選ばれた。そして戦いの中、彼は好敵手であったヒギトとまみえ、習い修めた格闘技で勝負をすることとなる。
なによりもまず読み応え!
隼人という存在を透かして映しだされた当時の日本の有り様は、政治的にも土地的にも色濃い問題をはらんでいることが窺えて実に興味深いですし、それだけでも物語として十二分に成立してます。
が、その渦中へカザトさんが投じられることで、物語がドラマに昇華するんです。
立場的には忌まれる異民族。でもその確かな格闘の技とまっすぐな心がヤマトの人たちとの友誼を、愛を育み、だからこその深い葛藤を生む。そして、それを積んだ先で同じ隼人とのライバル対決ですよ。盛り上がらないはずがありません。
極太の軸がまっすぐに通った歴史浪漫、まっすぐおすすめさせていただきます。
(愛を讃える(?)4選/文=髙橋 剛)