300万PV記念SS.妻であり、夫であるという事。

300万PV感謝!(なろうにて)

気が付いたら完結済みの作品をまだ読んでくれている方が沢山いて頭が上がりません。

200万の時と同様、SSを書こうと思ったもののこのキャラ達を久しぶりに動かしたらあまりに楽しくてSSといいつつ1万5000文字くらい書いてしまいました。


今回は意外な人物視点で物語が始まります。

蛇足中の蛇足、完結後のアフターストーリーが要らない人は回れ右でお願いします。

それと、懐かしい方々も登場するので読者様がどの程度覚えているかも興味あります(笑)

あえて名前を出してないキャラも居ますのでこんな奴もいた気がするなぁ程度でお読みいただければ幸いです。


それでは久しぶりのぼっち姫、開幕です!




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※






「そういえば姫とめりにゃんに子供ができたそうですよ」


 正直耳を疑った。


「えっと、ナーリア様……」

「こらステラ、もうその様ってのはやめるって話になったでしょう?」


 そうだった。わざわざ国の法を変えさせてまで私はナーリア様と結婚したのだから妻の事を様ってのはおかしい。

 とはいえ脳内までそう簡単に修正はできない。

 待って、よく考えたら妻って私なの? ナーリア様なの?


 そう、私達にはそんな疑問がつきまとう。

 だからこそ耳を疑ったのだ。


「えっと、姫ってセスティ様ですよね?」

「……? そうですよ?」

「えっと、じゃあ、どっちが、どっちの??」


「何を言ってるんですかこの子は」


「いやいやいや、セスティ様は女の体ですよね? メリニャンさんも女ですよね? どうなってるんです?? あ、養子をもらったとかそういう?」


 それならば話が早い、というか納得できる。

 子供を作れない同士養子をもらうというのは私だって少し考えた事があるくらいだ。


「いえ、姫の子を、めりにゃんが」

「だから何を!? どうやってっ!?」


 ナーリア様が不思議そうに小首をかしげて人差し指を口元に当てている。

 可愛い。抱きしめたい。

 でも今はそれどころじゃなかった。


「何をそんなに不思議がっているんです? 子供が出来たんですからフクノトリが連れてきてくれたに決まってるじゃないですか」

「またまたそんなおとぎ話で煙に巻こうとして……」


「?」


 ナーリア様はさっきから不思議そうな表情を一切変えずにこちらを見つめてくる。


 なるほど、言う気は無いという事ですか。

 しかしこればっかりは無視できない問題だ。

 だって女性同士で子供を作る方法があるというのならば私とナーリア様との子供を授かる事も可能……。


「分かりました。それなら私がそのフクノトリの正体を突き止めてやります」




 と、いう訳で私は魔物フレンズ王国へとやって来た。


「まったく、ナーリアの奴私を便利な足かなんかだと思ってんじゃないだろうな」


 ぶつぶつと隣で文句を言ってるのはナーリア様のお姉様でありとてもご高名な大賢者のアシュリー様だ。


 私が魔物フレンズ王国へ行くと言ったらナーリア様が移動手段として呼んでくれた。優しい。


 今となっては各国に転移屋が設置され、高額ではあるものの移動には困らないというのに。


「お姉ちゃんに運んでもらった方が早いし手続きも要らないでしょう?」


 そう言ってすぐ動いてくれた。優しい。好き。


 本当はナーリア様と一緒が良かったけれど最近始めたばかりの弓術道場を急に休みにする訳にはいかないから残ると言われてしまった。


 たまにとんでもない所に矢が飛んでくのが玉に瑕だけど美人で優秀かつ英雄セスティ様のパーティーメンバーだった事もあって門下生の人数はとんでもない事になっている。


 今や予約の取れない道場としてもっぱらの噂だ。

 ナーリア様はなぜだか言葉を話す不思議な武器を持っているけど、相変わらず弓を構える姿も素敵なのだ。


 美しい色と、その魔力を失ってしまったナーリア様の弓は、力は取り戻せなかったまでも色だけは以前の輝きを取り戻している。

 ナーリア様曰くさびー? とか言う人がなんとかしてくれたとかで喜んでいた。


 そのなんとかっていう人には軽く嫉妬したけれど、ナーリア様にはあの美しい弓が似合うので私も嬉しい。


 道場の門下生には不埒なゲス野郎どもや可愛らしい女の子も沢山いるだろうからこちらとしては毎日気が休まらないが、本人が充実した日々を送れているようなのでパートナーとして口を挟んじゃいけないと我慢している。


 だからこそ、だ。

 二人の愛の結晶を、愛の証を手に入れたい。


 きっとナーリア様がフクノトリだと誤魔化したのは何かしらの理由があるのだろう。

 危険な魔法による物なのかもしれないし、母体に負担がかかるものなのかもしれない。

 だとしても諦める訳にはいかない。


 私が必ずナーリア様の子を産んでみせる。

 つまり私が嫁だ。今決めた。


「で、あんたはこの国に何の用なんだ? 観光って訳じゃないんだろうし用件次第で必要な場所まで連れてってやるぞ?」


 口は悪いがアシュリー様はとても面倒見が良い。常日頃からナーリア様から聞かされている通りだ。


「わざわざ転移させてもらっただけでなく気を使わせてしまってすいません」

「はは、別に良いよ。何せ妹の嫁だからな。私にとっても妹って事だし」


 あっ、そうなるのか。

 大賢者アシュリー様が義理の姉……。

 何それ素敵じゃん。


 いやちょっと待って。


「アシュリー様、ちょっと伺いたい事が……」

「おいおい様はやめろって。アシュリーでいい」

「えっと、じゃあアシュリー姉さん」


 ぶほっ、とアシュリー様が吹き出す。可愛い。


「ね、姉さん……そうだな、事実だもんな。それでいいわ。で、なにが聞きたいの?」


「アシュリー姉さんは確かセスティ様のお嫁さんですよね?」


 再びアシュリー様が吹き出して、今度は顔が真っ赤になった。

 なんだこの可愛い生き物は。


 ナーリア様が、お姉ちゃんは可愛いといつも言っていたのも頷ける。

 当時は怖い人ってイメージが強かったけど、確かに可愛い。


「ま、まぁ……い、一応な? そういう事に、な、なってるな」

「子供は作らないんですか?」

「ぶほーっ!! げーっほっ、げっほ!!」


 今回は呼吸困難レベルでむせ返り、そのツリ目気味の瞳に涙を溜めながらこちらを見上げる。


「お、お、お前はっ、げほっ、げほっ、一体何を……」

「でもセスティ様とメリニャンさんに子供が出来たって」


 アシュリー様はしばらくむせていたが、やがて落ち着いたのか何事も無かったかのようなすまし顔で言った。


「ああ、そういう事か。二人の子供が出来たと聞いて祝いにきたのか?」

「はい。でも気になる事があって二人に話を聞きたいんです」

「なるほど。じゃあここに来た目的はセスティとメリニャンだな。ちょっと待ってろ」


 アシュリー様は何故か私から少し距離を取って、二人に通信を始めた。

 通信機を使っている様子は無いのでおそらく魔法だろう。便利だなぁ。


 何を話してるのかまでは分からないがアシュリー様は顔を赤くしたりなにやら怒鳴ったりしている。


 少し待つと、頭をポリポリ掻きながら帰ってきた。


「悪いがあいつらは少し留守にしててな、夕方には帰るらしいからそれまで観光でもしていくといい」


 確か今の魔王はメアリー様だったはずなのでセスティ様達には簡単に会えるかと思ったけどそうはいかないらしい。

 まぁ待てば会えるというならそれでいい。謎の解明が少し先に伸びるだけだ。


「どうする? 私が案内してもいいが……」

「いえ、ずっとお手を煩わせるのも悪いですし一人で平気です。いろいろ見て回ってみます」

「そ、そうか。お前はナーリアと違ってしっかりしてるな。今後共妹を頼むよ」


 そうしてアシュリー様は研究所とやらに帰っていった。


「あの!」


 どこから回ろうかと思案している時、唐突に耳元で大声を出されて飛び上がりそうなほど驚いた。


「ひっ、な、な、なんです……?」


 私に声をかけてきたのは白いダボダボのワンピースを着た緑髪の女の人だった。

 太陽光を受けてキラキラ輝くエメラルドグリーンの長い髪はとても綺麗だったけど、残念ながら本人がどうにもアホっぽそうで荘厳さが打ち消されている。


「あのあの! マスターの匂いがするんですけど見ませんでしたか!?」


 声が大きい。耳が痛くなりそう。


「ま、マスターって……誰です?」

「えっと、小さくて、目が尖ってて、怒ると怖くて、」

「あー、アシュリーさんですか?」


 それで分かってしまうのもどうなんだろうとは思うが、多分あってる。


「そうそうそのマスターです! お腹空いたので匂いを頼りに探してるんですよっ!」


 どやーっ! とその少女は腰に手を当てふんぞり返った。そして驚くほど大きなお腹の音を鳴らす。


「……ほら、お腹空いてるでしょう?」

「えっ、あ、はい」

「そーれーでっ! マスターどこ行っちゃいました!? 早く見つけないと大変な事に……!」

「それなら研究所に行くって」

「えらいこっちゃーっ!!」

「うわわっ」


 今までで一番の大声で叫びながら緑の人は走っていった。


「マスターが研究所に到着する前に確保しないとお肉が貰えなくなるーっ!!」


 ……。

 えっと? つまり、研究所とやらにアシュリー様がこもってしまうと食べ物が貰えなくなるからえらいこっちゃ??


 分からない。あの子の事が全く分からない。

 確かこの国には安く美味しいものが食べられる食堂があったはずだけど……。


 まさかその僅かなお金すら持っていないのだろうか……?


 ま、まぁいいや。気を取り直してあちこち回ってみよう。


 町並みは以前訪れた時とは比べ物にならないくらい発展していて、まるで王都と同じかそれ以上ってくらいいろんなお店がひしめいていた。


 武器防具のお店や、食料品店、衣服のお店に……アクセサリー屋さん。

 そうだ、ナーリア様にお土産を買っていこう。


 おしゃれな扉を開け、中にはいると……。


「なぁ譲ちゃん、たまには一緒に飯でもどうだい?」

「何言っとんのやこのおっちゃんは……セスっちと奥さんにチクるで?」

「お、おいおいプリンはともかくかみさんは勘弁してくれ。ってかそもそも奥さんじゃねーっての」

「おっちゃんがそんなだからいつまでたってもヨリ戻してもらえんのとちゃうん?」

「べ、別にヨリ戻したいなんて思ってないし? おじさんはほら、自由人だからさ、今を楽しく生きるのが一番なのさ」


 なんだろう。おじさんが一つ目のお姉さんをナンパしてる。


「お嬢ちゃんちょっといいかい?」

「あ、はいすいません」


 いつの間にか私の後ろに素敵なおばさまが立っていた。


「おっちゃんさいならー」


 おじさんは後から入って来たおばさまに引きずられていったが、私と一瞬目が合うと「お嬢ちゃん可愛いねおじさんと食事でもごべばっ」と、最後は言葉にならないうめき声を上げて動かなくなり、おばさまに担がれて消えていった。


「お嬢ちゃんごめんね騒がしくって。……ってあれー? 確かステラっちやったっけ?」


 一つ目のお姉さんは私の事を覚えているらしかったがステラっちって何。


「ははーん、嫁さんにプレゼントでも買ってこうって?」

「えっと、そう……ですけど嫁じゃなくて夫にです」


 一瞬その大きな一つ目が薄く閉じられた後、「あーそういう事もあるわなぁ」と言って、私を手招いた。


「いろいろあるから見てってな。気に入ったのがあれば安ぅしたったるでー♪」


 ショーケースの中にはブローチやネックレス、ブレスレットや宝石など色々な物があったが、見覚えのある色をした【それ】を見た瞬間、これしかないと感じた。


「あの、これ下さい」


「おっ、良い目しとるわー。でもそれはちょっとステラっちが買うには高すぎるかもしれへんで」

「大丈夫です。お金ならあるので」


「ほ、ほんまかいな……」


 お姉さんは困惑していたけれど、鞄の中から大量の札束をドン、と出すと態度が急変してあっさり売ってくれた。

 これでも私は由緒正しい生まれだし兄の収入のすべてを管理している。使い込んでも問題無いお金はあるのだ。

 後で兄に叱られるかもしれないけれど私の人生において大事な事なんだから許してもらおう。というかこれに怒るようならタコ殴りにして絶縁してやる。


「まいどおーきにー♪」


 そんなお姉さんの声を聞きながら店を後にした。


 のだが。


 店を出て少し歩くと、問題が生じた。

 誰かが後をつけてくる。


 気のせいかとも思い早歩きにしたり立ち止まったりしてみても、相手もそれに動きを合わせてくるので間違いないだろう。


 でも私はこの国に知り合いもそれなりに居るし、誰かと合流できれば問題ない。

 距離を詰められないように意識しながら歩いていると、突然目の前に大きな人影が立ちふさがった。


「お嬢ちゃん、随分景気がいいねぇ、ちょっとお兄さん達と一緒に来てもらおうか」


 前からも来るとは考えて無かった。

 私は誘導されていたのかもしれない。

 どこから見ていたかは分からないけど高額な物を買っていたからか、鞄の中身を見られたか、もしくはそもそもあの店で買い物をしている時点で金を持っていると思われたか。

 そのどれにせよちょっとまずい。


 流石に私じゃ三人相手は無理だ。


 この国も多くの移民や旅人を迎え入れた弊害でこういう悪党も増えてしまったんだろう。

 三人とも人間の時点で元々の住人じゃないのは確定だし。


「おい聞いてんのか? 怖くて声が出ねえってんなら黙ってさっきの店で買ったもんとその鞄をよこしな。そうすりゃ生きて帰れるぜ」


 男は言葉とは真逆の、人の良さそうな満面の笑みでこちらに手を差し出した。

 怖い、なんだこいつ。

 まずいまずい。後ろの連中も追いついてきた。完全に囲まれてるし、何故か周りの人々は私が困ってるのを気付いてすらいない。


「おっと、大声出しても無駄だぜ? 俺達の周囲は音が伝わらねえようにしてるからよ」


 魔法だ。音の広がりを防ぐような効果の魔法を使っているのだろう。だから周りに警戒されないように知り合いを装って笑顔を作ってるんだ。


 全力で走れば逃げられる?

 いや、魔法を使えるような相手だし相手は三人、逃げ切れるとは思えない。

 かと言ってせっかく買った物をこんな奴らに奪われるのはごめんだ。


「……私は大賢者アシュリーの妹ですよ? 手を出せばどうなるかわかってます?」


 一瞬だけ男の表情が曇るが、すぐににこやかな笑みに戻る。


「嘘をつくならもっとマシなのにしろ。俺は大賢者の妹を見た事があるがもっと背が高くて黒髪だったぜ」


「私はそのナーリア様の妻ですからアシュリー様の義理の妹です」


「……は?」


 今度こそ男の表情が崩れる。


「大賢者の、妹の、妻ぁ? 何をわけのわからねえ事言ってんだお前」


 だめだこいつ変なとこ常識人でナーリア様の妻ってのが伝わらない。


「ど、どうする? 本当だったりしないか?」

「馬鹿、嘘に決まってんだろ。それに本当だったら身代金要求でもっと稼げるだろうがよ」

「まぁ、そういう事だからよ、帰す訳にはいかなくなっちまったなぁ?」


 三人はそんな話をしながら私との距離を詰める。


 まずいまずい。

 どうする? とりあえず一番気弱そうな奴を殴り倒してそこから突破?

 一人くらいならなんとか……。


「おうおうおう、随分楽しそうな話をしてんじゃねえか俺も混ぜろよ」


 どこからかそんな声が聞こえた。

 だめだまた相手が増えてしまった。


 そう思ったのもつかの間、あっという間に暴漢三人は地面に転がってのたうち回っていた。


「……え?」

「まったくよぉ、最近は馬鹿どもが多くてかなわねえなぁ。大丈夫かいお嬢ちゃん」


 一瞬で男たちを伸したのは、やたらでかいムキムキの馬だった。二足歩行の馬。

 でもこの人見た事がある気がする。


「実はアシュリーさんから頼まれて遠巻きに警護してたんだよ」


 確かこの国で治安維持の為の警備とかしてる魔物だった気がする。

 とにかく助かった。


「ありがとうございます! 助かりました」

「いやいや、礼ならアシュリーさんに言ってくれ。それにせっかく来てくれたのに怖い思いさせて悪かったな」


 そんな紳士発言をしながら倒れている男達を縛り上げていく。

 どう見ても全員腕やら足やら折れてるなこれ。


「く、クソがぁ! お、俺達をどうする気だ!」

「んー? 勿論牢屋にぶち込むさ。んで二度と悪さ出来ないように魔王様に首輪を付けてもらう。次何かしたら頭がボンっ、だぜ」

「ひ、ひぃぃぃ! この鬼ッ! 悪魔ぁぁ!!」

「人聞きのワリィ事言うんじゃねえよ。むしろ俺が対処してるからそれくらいで済んでるんだぜ感謝しろよ」


 この馬の魔物はホーシアさんというらしい。私の事を心配したアシュリー様がつけてくれた護衛なんだそうだ。

 ホーシアさんはどこかに通信機で連絡を取ると、すぐに警備の人達が駆けつけて暴漢達をどこかに連れて行ってしまった。


「国がでかくなるってのは良くも悪くもあるよなぁ。ま、俺達が遠くで見守ってるから安心して観光してくれや」


 ホーシアさんは蹄の手を振りながら去っていった。


 そういえばあの蹄でどうやって縄を縛ったんだろう、なんてどうでもいい事を考えながら街をうろうろ観光していると、日が暮れてきた頃にソレは現れた。


 突如、背後に。


 結構ビックリするからやめてほしい。


「お兄ちゃんに用があるんでしょ? 帰ってきたよ」


「あっ、はい……」


 驚いてそんな反応しか出来なかったけど、この人はセスティ様の妹のショコラさんだ。


「案内するように言われてるんだけどごめん、私はこれから忙しい」


 この人はこの国でもトップクラスの危険人物なので私もあまり関わりたくはない。

 だって今だってその手には鎖が握られていて、その先には目隠しをされて口に変なボールを咥えさせられてよだれを垂れ流している黒髪の少女が繋がれていた。

 危ないにも程がある。


「ぼ、ぼねーざま、」

「黙れ」

「びゃいっ!」


「ほら、そういう訳だからごめん一人で行ってくれる?」


 私もそう願いたい。


「大丈夫です。お城の方へ行ってみます」

「ん。じゃよろ」


 それだけ言うと彼女は消えた。

 比喩とか転移とかじゃなく、残像を残して消えていった。

 あれは人間じゃない。


 ホーシアさんに案内を頼もうかと思ったけど、もっと適任を見つけたのでそっちに頼む事にした。


「あの、ちょっとお願いがあるんですけど……」


「はい? あ、ステラさんじゃないですか♪ 今日はナーリアさん一緒じゃないんですか?」

「はい。都合が付かなくて、私だけで来ました」


 私が声をかけたのはキラキラと粒子を撒き散らしてそうな綺麗な金髪の少女。私と同じ髪色なのにこの神々しさはなんなんだ。


 私はなんともいえない劣等感を押さえ込み、状況を説明した。


「なるほどなるほど! それじゃーこのヒールニントおねーさんが案内してあげようじゃありませんか!」


 腰に手を当てふんぞり返る姿すら後光がさして見える気がする。

 そして、その背後から大きな荷物を抱えた女の人が近付いてきた。


「おい、これからカルゼとの待ち合わせだろ? そんな暇無いって」

「うるさいキツネコですねぇ……ハーミット様も連れていけばいいんですよ」

「キツネコって言うなバカ!」

「バカって言う方がバカなんですー!」


 ヒールニントさんは一緒に買い物をしていたらしい獣耳お姉さんとバッチバチの口論を始めてしまった。


「やっぱり私はお前がカルゼの妻なんて認めないからな!?」

「キツネコに認めて貰わなくても公然の事実ですけどー!?」

「お前なんか性格悪くて捨てられろ! カルゼは渡さないから!」

「しょうがないから愛人としてくらいなら認めてやってもいいかと思ってたのに……これは裁きが必要ですね」

「やれるもんなら……」

「おぉん? また伸されたいんですかぁー?」


 二人が腕まくりして今にも街中で殴り合いでも始めそうになってしまい、私はどうしていいか分からずオロオロしていた。


 慌てて周りを見渡すと、遠くにホーシアさんが見えた。……けど、私と目が合うなり目をそらされ見てみぬふり。

 どうやら関わりたくないらしい。


 困ったぞどうしたものか。


「おいおい街中で何やってんだ二人とも……」


 救いの神か、あるいはただの燃料か、この争いの原因が割って入った。何でもいいからどうにかしてほしい。


「か、カルゼ! 聞いてくれよこの腹黒悪魔女が!」

「悪魔女じゃなくて聖女です残念でしたーっ!」


「お前ら相変わらず仲いいなァ」

「「いいわけねーっ!」」


 なんだか可燃性燃料男の参入で修羅場が勃発してしまったので私はそそくさとその場から避難した。

 とてもじゃないが付き合いきれない。


 早足でその場を後にすると何かを思いっ切り蹴飛ばしてしまった。


「な、何をするであるかーっ!」

「ご、ごめんなさい見えなくて……」


「……なんだ、ステラであったか。今度からは足元をよく見て歩くのである!」


 蹴飛ばしてしまったのはぬいぐるみ……の姿をしたライゴスさんだった。

 なんでこの人まだぬいぐるみなんだろう?


「まぁいいのである。慣れっこなのである」


 ライゴスさんは少し憂鬱気味にうつむきながらそう言った。

 少し頼りないがいないよりマシかと事情を説明すると、「頭上を所望するのである!」とか言うので仕方なく頭に乗せる。

 そうしないと周りがよく見えなくて危ないのだそうだ。

 多分危ないのは私じゃなくてライゴスさん本人だろう。


 頭上からの指示に従って進み、城門まで無事に到着した。

 ライゴスさんの顔パスで中に入ったところで私は小さなレディに嫉妬の炎を燃やされてしまう。


「……らいごすくん、そのひとだれ」

「り、リナリー! これは違うのである!」

「らいごすくんが浮気してる……」


 どうやらこの小さなレディは自分以外の女性の頭に乗ってたのが我慢ならないようだ。

 先程のようにいろいろ燃え盛らないように早めに対処をしよう。


「ごめんね、私が無理を言ってここまで案内してもらったんですよ」


 そう言って頭の上から彼女の腕の中へライゴスさんを受け渡すと、ムギュッと潰れてしまいそうなくらいライゴスさんを締め上げて、「ぐ、ぐえぇ」とかいうライゴスさんの声は無視してこちらにペコリと頭を下げどこかへ走って去っていった。


 頭を下げながらもその表情は少し不服そうだったのでライゴスさんはこれから詰められるのだろう。ご愁傷さまというやつである。


 さて、無事に城までは到着したもののセスティ様の部屋はどこだろう?

 私が訪ねてきてるのは耳に入ってるだろうし向こうから迎えに来てくれたってよさようなものだけどもそこまで期待するのは虫が良すぎるか。


 城内は特に警備が厳しいという事もなさそうなので自力で探してみよう。


 今は魔王ではないらしいので一番上ではないだろうから……この辺かな?


 しばらく歩き回って、少し豪華そうな扉を見つけたのでノックしてみる。

 しばらくの無反応の後、扉がうっすらとだけ開いてなんだか蜂っぽい魔物のお姉さんが小さな声で「だ、誰……?」と怯えながら言った。


 いろいろ気になるところだけど私は多分一番来てはいけない部屋へ来たんだと一瞬で悟った。


 ほんのり開いた扉の隙間から、壁に鎖で繋がれた裸の女の人が目に入ったからだ。


「お、おいおまえっ!! 誰でもいい、助けてくれーっ!」


 やば、助け求められてる……。


「こらシャリィ、これは貴女が粗相をした罰なのですよ?」

「し、しかしキャナル様! このままではいつまでたってもブライの復興など叶いません!」

「またそんな事言って……私達は既に主様の物なのですよ? いい加減受け入れなさい」

「いっ、嫌だァァァッ! おい、そこのお前っ! ま、待て扉を閉めるなたすけ……」


 見なかった事にしよう。


 それが私の身を守る一番の方法だろう。ごめんなさい知らないお姉さん達。どうかお元気で。


 さ、気を取り直してセスティ様の部屋を探そう。




 ……しばらくあちこち見回ってみたけれど一向に当たりに遭遇しない。

 むしろ城大きすぎ。なかなか誰かと遭遇しない。

 たまに居たとしても食料や備品の搬入の人だったりでセスティ様の部屋が分からない。


 困った。いっそ一番上層を目指して魔王様に直訴するか……?


 そんな考えに至った頃、通路の向こうからタヌキが歩いてきた。


「んー? なんか見覚えあるようなないような娘っこだべな」

「あの、私はステラっていいます。ナーリア様の配偶者なのですが……」

「あーあー! そうだべそうだべ! んで、そのステラがこんなとこでなにしとるんだべな」


 このタヌキは……えっと、魔物じゃないんだっけ? よくわからないけど確かセスティ様の付き人だか付きタヌキだったはず。


「私セスティ様を訪ねて来たんです。本人にも多分話は通ってると思うんですがなにせお城が広くてどこがセスティ様の部屋だか分からず……」

「なんだべ……? まさかダーリンを狙ってるんじゃ」

「違います! ちょっと聞きたい事があって来たんです!」


 妙な勘違いをされてはたまったものではない。


「ほんとだべかー? んー、でもナーリアの嫁なら問題無いべ。ダーリンの部屋まで連れてってやるべさ」

「助かります」


 小さな二足歩行タヌキ少女に頭を下げ、案内してもらう事数分。

 思いの外近くにそれはあった。

 ただ、部外者が簡単に入れないように扉自体が魔法で隠されていた。


 そんなん分かるわけないじゃん。


「ダーリンお客さんだべー」


 タヌキ少女がドアを勢い良く開け放つと、そこには……。


 お風呂あがりのメリニャンさんとセスティ様が。


「あーっ! またダーリン独り占めして一緒にお風呂入ってたんだべな!? ずるいべ!!」


「わ、わ、なんじゃ急に!! とにかく早く扉をしめるのじゃーっ!!」


 二人とも裸で、髪の毛を拭いているところだったらしくメリニャンさんは慌ててタオルを体に巻き付けその場に屈んだ。


「おいおい、せめて部屋に入るならノックくらいしろよな……」


 セスティ様は慣れているのか妙に堂々としていた。

 相変わらずどう見ても女性だし、綺麗な顔にちょっと控えめだけど綺麗な胸。そして白い肌。


 ……あと汚らわしい物体。


「うわっ! ステラも一緒だったのかッ!?」


 私に気付くなりセスティ様が下半身をタオルで隠す。


「……セスティ様。大事なお話があります」

「待て待てちょっと待ってくれ着替えくらいさせろ」

「そうじゃそうじゃ非常識じゃぞーっ!」


 先程の堂々とした姿はどこへやら、セスティ様は下半身を隠しながら柱の影へ逃げた。

 メリニャンさんは顔を真っ赤にしたままその場に蹲ったままだ。


「……分かりました。扉の前で待っているので準備が出来たら呼んでください」


 とりあえず私だけ部屋から出て、扉の前で待つ事十分弱。

 長くない?


 しばらくするとご立腹のタヌキ少女が部屋から出てきて、なんだか「ぷんすかだべ!」とかいいながらどこかへいった。


「も、もういいぞ」


 中からセスティ様の声がしたので部屋に入ると、二人ともちゃんと着替え終わってこちらを気まずそうに見てくる。


「……で、でさ、俺に何か用か?」

「はい。お二人に子供が出来たと聞いてきました」


 二人は顔を見合わせ、微笑んだ。


「なんじゃ、わざわざそれを祝いに来てくれたんじゃな」

「違います」

「えっ」


 私の様子から何か鬼気迫る物を感じ取ったのかメリニャンさんの表情が固まる。


「な、なんじゃ? どういう事じゃ??」


「私は二人に聞きに来たんです。勿論子供が出来たのは喜ばしい事なのですが私にはそれ以上に重要な事です」


「あー、なるほどな。そういう事か」


 セスティ様は私の訪問理由を察してくれたようだが、メリニャンさんは「なんじゃなんじゃ!?」と困惑しっぱなし。


「めりにゃん、ちょーっとステラと二人で話があるから奥の部屋に行っててくれるか?」

「わしだけ仲間外れなのはなんでじゃ」


「うーん、ほらステラはさ、多分……」


 セスティ様がメリニャンさんの耳元でごにょごにょと何か伝えると、みるみるうちにメリニャンさんの顔がさっき以上に真っ赤になってしまった。


「な、なるほど、理解したのじゃ……わしにはちょっと、刺激が強すぎる話のようじゃからして、その、ひえーっ」


 急にドタバタと奥の部屋へと逃げ出した。


「別にメリニャンさんが居てくれてもよかったんですが。詳しくどうだったのか聞きたかったですし」

「勘弁してやってくれ。めりにゃんは今でもそういうのに疎いし恥ずかしがりやだからさ」


 そう言って笑うセスティ様はとても綺麗だった。


「では単刀直入に聞かせて貰いますけど、生えてましたよね?」

「うっ……やっぱ見た?」

「はい見ました汚らわしい物体が生えてるのをじっくりとガン見してやりましたとも」


「お、おいおいステラくらいの年齢の子が見るには……」


「入れたんですか?」


「……なんですって??」


「だーかーらーっ! それでアレしてコレしたから子供が出来たのかって聞いてんだよゴルァっ!!」

「ひっ、お前……相変わらず怖いんだよ」

「んなこたぁどーでもいいだろうが! さっさと答えろ!!」


 セスティ様はしばらく眉間に指を当てて悩んだ後、「……うん」と小さく頷いた。ピュアか。


「……なるほど事情は分かりました。そうする他無いようなので汚れは甘んじて受け入れましょう。生やして下さい」


「……えっ?」


「えっ? じゃねーんだわ」


 セスティ様に生やせるなら私にも生やせる。

 生やせるならアレやこれが出来るし子供も出来る。

 本当は私が嫁でナーリア様の子を孕みたかったのだけれどこうなったら仕方ない。


「……うーん、とりあえず確認だけど、ナーリアとの子供を作りたいって話なんだよな?」

「そうです。本当は私が孕みたかった」

「じゃあどうして」

「ナーリア様に生えてるなんて我慢できません」


「あぁ……」


 セスティ様はなにやら納得したようで、静かにソファから立ち上がり、私の肩に手を置いた。


「ふぅ、仕方ない。メアの所に行くぞ」


 一瞬の酩酊感。


 そして。


「うわなんですのこの愚民! 驚かすんじゃありませんわっ!!」

「うげっ、今日こっちの日かよ」

「うげっとはなんですのこのド愚民がーっ!」


 ……どうやらセスティ様は私を連れて魔王様の部屋に転移したらしい。

 扉をノックしろとかどの口が言ってたんだろう。


 まぁそれは置いとくとして、なんだか魔王様の様子がおかしい。

 以前はもっとこう、落ち着いた雰囲気だった気がする。


「急にわたくしの部屋に押し入ってくるとはいい根性してますわね! ……ってあら? そちらのお嬢さんは確か……」


「ステラです。ナーリア様の配偶者の」


「あぁ覚えてますわ。で、わたくしになんの用ですの?」

「それは俺から話す……と言いたい所なんだが、悪いちょっとメアに代わってくんねぇかな」


 メアに、代わる??


「嫌ですわ。今日はわたくしの日でしてよ?」

「分かってるって。だからそこをなんとか頼むよ」


「……はぁ、仕方ありませんわね。少しの間だけですわよ?」


 魔王様が目を瞑り、再びその瞼が開いた時、それは私の知っている魔王様だった。


「とりあえず説明してもらえる? わざわざ私を呼んだって事は私の力が必要って事でしょう? まぁ大体予想は付くけれど」


 そう言って魔王様がこちらをチラリと見ると、まるで身体が固まってしまったかのような感覚に包まれる。


 明らかに先程までとは圧が違う。


「メアを呼んだのはさ、このステラに、その……アレだ、アレをその」


「……何よ」


「おい分かってて遊ぶなよ」

「ちゃんと聞かなきゃ分からないじゃない」


 ドSだ。この魔王、言いづらそうにしてるセスティ様を見て楽しんでる。


「それなら私から説明を……」


 と、そこまで言いかけてやめる。


 魔王様が口の前に人差し指を立てて「黙れ」の合図をしてる。


「あぁもう! だからこいつがナーリアと子供を作れるように生やしてやってくれよ!」

「何をよ」

「ナニをだよ!!」


「……ふふっ、まぁいいわ。このくらいで許してあげる。貴方が頭を下げに来た日の事を思い出すわね」

「忘れろ!」


 ああ、きっとセスティ様も魔王様に頼んで生やしてもらったんだ。


「あの、できればなんですけど、あんな物をずっと生やして生きるのはその、耐えられないといいますか……」


「貴女結構我侭ね」


「無理、でしょうか?」


 魔王様は私を頭から爪先まで一通り眺めてから、「出来なくは無い、わね」と言った。


 それは簡単にはいかないということだろうか?


「まず、生やすだけなら簡単なのだけれどそれに生殖能力を持たせるのが大変なのよ」


 やれやれと自分の額に手を当てながら魔王様は語る。


「貴女の身体の中で種を生み出せるようにならないと意味がないでしょう?」


 魔王様が言うには、内部構造をいじらなければいけないのだそうだ。

 そして、それを元に戻すにはまた魔王様に頼んで逆の事をやってもらう必要がある。

 確かにそこまで手を煩わせてしまうのは私としても心苦しい。


 一生アレを生やしたまま生きるしかないかと諦めかけた時、魔王様は一つの道標をくれた。


「例えば、よ? 私が何かしらの道具に魔法を込めてそれを身に着けて時間をかけて生やすって方法をとれば内部構造の手直しも含めて無理なく変化が可能よ。その場合はその道具を外せばまた次第に元に戻る」


「それがいいです! お願いできますか!?」

「待ちなさい。可能、ではあるけれど私がそれだけの魔法を込めても壊れない強度の触媒が必要よ。アーティファクト級か、もしくは同等の……どちらにせよ簡単に手に入る物ではないわね」


 それは、難しい……のだろう。

 アーティファクトなんて簡単に手に入れられるはずもない。


「うちの国にあるアーティファクトでどうにかなんねーのか?」


 セスティ様がそう提案してくれたけど、「無理ね」とあっさり私の希望は打ち砕かれた。


「何かしらの用途が与えられたアーティファクトでは駄目なのよ。元々の機能が邪魔なのよね」

「じゃあアシュリーの疑似アーティファクトは? そうだ。あれならメアも作れるだろう?」


 魔王様は少し考えてから、ゆっくり首を横に振った。


「長期着用を前提に考えるなら強度がもたないと思うわ。例えばそう、貴方のメディファスのように自らの意思で対応可能なアーティファクトなら問題無いのだけど」


「メディファスかぁ……」


 セスティ様が右腕を伸ばすと、その手の中に一本の剣が現れる。


「おい、しばらく他人の所有物になる気はあるか?」

『な、な、いきなりなんの話を……? 我を捨てる気ですか??』

「例えばの話だよ」

『あり得ません。主以外の所有物になる気はありません無理です諦めて下さい。そもそも例えにせよ酷いです鬼です悪魔です』

「分かった分かったから」

『分かれば良いのですぷんすかです』


 剣と会話してる……。


「はぁ……悪いステラ、こいつは言い出したらきかないから」

『我が悪いように言われるのは不条理! そもそも主は我を軽んじすぎる傾向に……』

「わーったって!」

『待って下さいまだ話は終わってな……』


 セスティ様が一方的に呼び出した剣を一方的に強制送還した。割と酷いと思う。

 というかどこから出してどこに消えたんだろう?


「メディファスが無理なら……すぐにはどうする事もできないわね」


 やはりこの場で処置してもらって一生アレと付き合っていくしか……。


「なぁ、強度が必要って言ったよな? クリスタルツリーとかはどうだ?」


「クリスタルツリー……そうね、それくらいの強度があれば大丈夫よ。アレは元々魔力が蓄えられて形成される物だしね」


 クリスタルツリー、どこかで聞いた事があるような気がする。


「それならよ、俺がナーリアに預けてるクリスタルツリーの弓はどうだ?」


「なるほど、確かにそれなら可能だわ。強度もあるし、力を失ってるなら再利用先にはちょうどいいわね」


 そうか、ナーリア様が持っているあの綺麗なエメラルドグリーンの弓はセスティ様の物だったのか。


「ただしばらくの間……そうね、最低でも一週間程度は肌身離さず持っていなければならないからそのままでは難しいでしょうね。加工していいのなら問題無いわよ」


「まぁ、俺は構わないが……アレはナーリアにくれてやったような物だからなぁ」


 何を言ってるんだこの人達。勝手に話を進められては困る。


「駄目です。あの弓は、ナーリア様にとって大切な物だから……あの弓をどうにかしてしまうなら私は一生生えたままでも構いません」


 二人は私の言葉に少し面食らったように口を半開きにしていたが、二人とも視線を合わせると急に微笑みだした。


「ふふ、ナーリアはいい伴侶をもらったのね」

「そうだな。……ん、待てよ? クリスタルツリー、か」


 セスティ様は何か思う所があるらしく眉間にしわを寄せて考え込んでしまった。


「ちょっと確認取るから待っててくれ」


 セスティ様が通信機を使って誰かに連絡を取り出した。

 というかセスティ様は通信魔法とかは使えないのか。


 何事かを通信器越しの相手と話して、やがて肩を落とした。


 どうやら駄目だったらしい。


「なんだったのよ」

「いや、ちょっとしたアテがあったんだけどちょうど今日売れちまったらしい」


「ああ、そういえばだいぶ前にアシュリーと一緒に取りに行ったって言ってたわね」

「そうなんだよ。その時小さな欠片がまだ残ってたって言ってたからさ。まだあるかと思ったんだがよりによって今日かぁ……アレばっかりはもう当分手に入らないからなぁ」


 二人がなんの話をしてるか分からないが、なんとなくだけど私にはとある予感があった。









 私がセスティ様に転移で家の前まで送ってもらうと、中からとても美味しそうな匂いがする。


「ただいま」


「おかえりなさいステラ。今日はステラの大好物を作って待ってたんですよ♪」


 ああ、やはりナーリア様は世界で一番可愛くて素敵な奥さんだ。

 もう私が妻じゃなくても私が子を孕めなくても構わない。


 そんな事より大事な事だってある。


「ナーリア、私……フクノトリの正体、突き止めてやりましたよ」


「……? どういう事です?」


「私、ナーリアの良き妻になりたいと思ってましたけど、気が変わりました。良き夫になります」

「え、どうしたんです急に……」


「いえ、ただ宣言しておきたくて。ナーリアは私達の子供ってほしいですか?」


「えっと、それはまぁ。フクノトリ次第でしょうけど二人の子供ならほしいに決まってるでしょう?」


 それだけ聞ければ十分だった。


「ナーリア、一週間です」


「はい?」


「一週間後……覚悟しておいて下さいね? 逃しませんよ?」

「おかしな子ですねぇ……逃げたりしませんよ? でも覚悟ってのは何の覚悟です??」


「それは……その時のお楽しみです♪」




 あれこれと方法を模索したけれど、問題は最初からほとんど解決していたのだ。


 私が一つ目のお姉さんのお店で買った物は、ナーリア様の弓とお揃いの綺麗な色をしたペアリングだったのだから。






※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


お読み下さりありがとうございました!

あの国やあの人々にもちゃんと時の流れが存在するだなぁ、という内容になっていたかと思いますがどうでしょう?

次にこの人々を動かすのはいつになるか分かりませんが、またこういう機会があればぜひ作者としても皆と再会したいものです。


長い事新作公開が止まっていますがちゃんと準備も進めておりますので、次は新作でお会い出来ることを願っております。


monaka.

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ぼっち姫は目立ちたくない!【完結】 monaka @monakataso

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