愛してると言ってくれ。

ねえどーして? すごくすごく好きなこと、ただ伝えたいだけなのに。

昔そんなヒット曲がありました。
今にして思えばその歌は、とても臆病でした。
「むちゃくちゃ好きやっちゅーねん!」とも「あいたくてあいたくて震える」ともいいませんでした。

るーるるーるるー。

うまくいえないんだろう?

過去と現在が鮮やかに描かれるのが、江戸川台ルーペ作品の面白いところです。
「あの頃の僕」と「いまの僕」のなかの変わっていないところを探そうとしている。変わっていない部分があるのならば、僕はきっと、これからも変わっていない部分を大事に、生きていけるはずだ。
イノセントは喪失していないのか?
イノセントとは、十代を過ぎてからも生まれるのか?

しかし江戸川台さんの作品にとってのイノセント、あるいは少女であったり、青春は、一筋縄ではいきません。
忘れないように大事にしなければならない脆いものであるというのに(だからこそ)、性欲と暴力の渦中にあります。

江戸川台作品をいいな、と思う読者は、身体で理解しているのでしょう。

あの頃の自分はきれいごとじゃなかった、と。

ねえ、どうして、うまくいえないんだろう。

うまくいえないことを、小説にすること。
うまくいえないまま、書くうまさ、がこの作品にはあります。

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