暴力の連鎖、断ち切るのは誰か?

さて、読み終えた方はすでにお気づきでしょうが、本連作には共通する主題があります。それは男の罪と女の復讐、そして暴力の連鎖です。

振り返ってみてください。「死者の祈り、あるいは呪い」における姉と義兄あるいは僕、「神尾文彦の追跡」における友人とその秘書、「オーバーライト」における教師と姉妹、「野良犬の喰うところ」における失踪者と姉妹。こうして振り返ってみれば、まず最初に男性が女性に対して犯す罪があり、そのカウンターとして女性が男性に呪いをかける、あるいは打ち滅ぼすという構図になっていることがわかるでしょう。

ここで特に注目すべきは、「死者の祈り、あるいは呪い」です。これはさるところで発表された短編「けふをかぎりの」をベースにした作品なのですが、改作を経て、大きく変わった点があります。それが最終章の「男の罪」にあたる要素の追加です。これは単に物語にひねりを加えるだけでなく、連作としての統一性を持たせるための必然だったことがわかります。

幽霊となって「男の罪」を告発する姉。この追加要素にはもうひとつ役割があります。それは、同じく幽霊が登場する4作目の「野良犬の喰うところ」と対称(あるいは対照)関係を作ることです。「野良犬の喰うところ」に登場する怨嗟に満ちた地縛霊は「死者の祈り、あるいは呪い」の姉の分身と考えるべきでしょう(ですから、姉の幽霊はやはり「許さない」と言っていたのだと思います)。

「死者の祈り、あるいは呪い」において「生者には断ち切れない」とされた暴力の連鎖。実際、本連作にも様々な形で暴力の連鎖が描かれます。しかし、そんな中で仄かな希望をもたらすのが連作の最後を飾る「野良犬の喰うところ」のラストです。その幕切れは大団円とは言い難いかもしれませんが、ここでは確かにある暴力の連鎖の終わりが描かれています。一見、登場人物から何からばらばらに見える本連作が連作たり得ているのはこうした主題上の配慮によるものでしょう。

何より驚くべきは、こうした共通の構図と主題を持ちながらも、本連作がバリエーション豊かな連作として新鮮な印象をもたらす点でしょう。これはひとえに書き手の筆力あってのものだと思います。

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