思わず耳を傾けてしまう、おそらくはありふれた会話劇

マックでの会話に終始する作品です。

それだけ聞けばなんということのない話なのですが、そこで展開する男女の会話には思わず野次馬根性を発揮したくなる「予兆」があり、ついつい前のめりに耳を傾けてしまいます。


気安く見える間柄の男女の、しかし実は不安定な関係性。

人は同じ時間を共有していても全く違うことを考えているかもしれない。友達だと思っていても、ある日突然、どちらかが「付き合わない?」と言い出すかもしれない。

それは男女差によるものかもしれないし、単にまったく別の自我を持った他人だからかもしれない。

そんな他人と親密になるのが、たとえば恋愛的な意味での「交際」であり、それが決して一筋縄ではいかないことなのだと再確認させられるのが本作です。

この男女ははたしてどうなるのだろう? にわかに現出したサスペンスに、耳が離せません。

2人はどういう関係なのか? そもそも付き合うとはどういうことなのか? 自明に思えたことを問い直す会話劇は刺激的でありながらどこか可笑しく、少し引いた目線の叙述が心地よく物語をリードしていきます。

2人がどのような結論を出すかはぜひ本編を読んでお確かめください。

しかし、ひとつ言えるのは、この物語はあくまで人生の一断面であり、おとぎ話のように「いつまでも幸せに暮らしました」という保証などあり得ないということです。

作者さんはあくまで読者を卑小な野次馬の立ち位置に留めます。われわれには、2人の人生を終わりまで知ることなど望むべくもないのです。

しかし、だからこそ、この男女の今後を想像することができるのです

この2人には、そうした想像を誘うだけの実在感があります。

野次馬はクールにマックを去りましょう。

そして、帰り道で2人の会話を思い出しながら、その未来に思いを馳せてみましょう。