あとがき

 こんにちは。


 この度は私の書いた物語にお付き合いしていただきまして、誠にありがとうございます。


 このお話は「もしもこんなへんてこな制度があったら」「もしもこんな理不尽な法律があったら」というコンセプトで書いたオムニバスです。


 今まで私は読む人に「こういう考え方ってあるよね」「こういう問題が起きたら大変だよね」と問題提起や共感してもらえそうな発想を呼び掛けるつもりでテーマを込めて話を作っていたのですが、今回は単純に思いつきと勢いで話を作りました。そのためあまり複雑な伏線はありませんが、その分気楽に楽しめる話になってくれればいいと思っています。


<恋愛免許について>


 昔、世にも奇妙な物語というドラマで「オトナ受験」という話がありました。大人による情けない行為や子供じみた犯罪が増えたために大人が免許制になった世界で、ある男が大人免許を持っていなかったために捕まってしまい、訓練所に放り込まれてしまうという話です。


 どこか怖い話なのに演出はユーモラスで印象深く、ずっと私の心のどこかに残っていました。この話はそれに触発されて急に思いついたものです。


 ただ、ふと書き上げた後で「恋愛免許」で検索するとネット小説で同じ発想の話を書いた方がすでに二名ほど見つかりまして、しかもそのうちのお一人は同じカクヨムに掲載されていました。


 こうなると二番煎じ、三番煎じも良いところですが、発想としては後追いでも内容は別物と思って楽しんでいただければと幸いです。自分では斬新なつもりの思い付きというのはたいてい誰かがやっているのだなあと赤面しました。


 物語の中では女性が本人の意思とは関係なく客観的な尺度でもって、物であるかのように価値を決められています(女性からしたら不愉快かもしれません)。一方男性は男性で女性をいかに楽しませて尽くすことができるかで自分の価値を測られることになるということで、ある種のディストピアになっています。


 現実世界にも恋愛において、こういう目に見えないランク付けをしている人は確かに存在しているのかもしれませんが、そういう価値観が支配する場所には居たくないなあと個人的には思います。




<老人法について>


 ご存知の方も多いかもしれませんが、少年法は「未成年はまだ精神的に未成熟であり、更生する余地があるから罪を犯しても刑事犯罪として扱わずに、罰するよりも保護観察などで過ちを正して立ち直させる」という考え方の法律です。

 昔は十六歳以上のみが刑事処分可能となっていましたが、その後改正されて今では十四歳以上も刑事処分が可能になりました。


 その背景には当時、ある中学生が同級生からひどいいじめと暴行を受けたあげく殺害されるという残酷な事件がありました。しかし未成年であるため刑事罰に問えず犯人の少年は数年後に社会に出てきてしまう、という事実から当時のマスコミや世論で「これでいいのか」「罪を犯しても少年法が守ってくれるという考えが蔓延してしまうんじゃないか」と議論を呼んだ記憶があります。


 私自身は法律家ではないので、その是非については何とも言えませんが「少年法がそういう考え方なら、老人法というのがあったらどうなるんだろう」と思って考えた話です。


 小説の展開として考えるなら「老人は弱者であり、認知能力も落ちているんだから、刑事責任を軽くしてあげる法律」にするか、それとも「老人は長い人生経験と分別があるはずなんだから、それにもかかわらず罪を犯すのは重くとらえる法律」にするかの二択です。


 前者の場合で考えたのは、自分の犯した罪を忘れてのうのうと生きている黒田武雄を、老人法が成立して殺人を犯しても重く裁かれないと考えた氷川正彦が殺害する、というオチでした。


 しかしそれだと、憎しみにとらわれた被害者が加害者と同じ行為をするに至るというあまりに救いがない終わりかたなので、せめて黒田が自滅する因果応報オチの方がまだ救いがあるかと思って後者の設定を選択しました。


 それでも相当ブラックな雰囲気になってしまい、自分で最後まで読み返してみて妙な余韻が残りました。多分もう、こういう話は書かない気がします。




<失恋保険について>


 失業保険があるなら、失恋保険があってもいいかもしれないという発想で書いたものです。しかしタイトルと設定ありきで深く内容を考えずに書き始めたので、話をまとめるのに必要な描写をあれこれと書いているうちに、長くなりすぎて短編というより中編になってしまいました。


 因みに失恋保険という発想も自分では洒落が利いていて新しいつもりでいましたが、調べてみたら同じタイトルのテレビ番組やドラマが十年位前にありまして、改めて斬新なアイデアを出すのは難しいと痛感したものです。


 前の話が暗すぎたので、とにかく明るく笑えるノリで行こうと思って書いていました。


 




 なお、この物語は最初五話の予定で考えていまして、後の二話は「無名税」「傍観罪」というタイトルにする予定でした。


 一つ目は芸能人などが旅行先などでパパラッチに付きまとわれたり、一般人に騒がれたりする苦労を「有名税」なんて言いますが、その逆に「無名税」なんて言うのがあったらどうだろう、という発想です。


 あまり人に関わらず、この世に自分の存在を一定数以上の人間に知られていない無名の人間は、社会的な活動が少ない非生産的な人間とみなされ、高額の税金を払わされるという設定でした。


 主人公は引きこもり気味の女性で税金を逃れるために、なんとか自分を有名にしようと動画サイトに投稿したり、自分と同じ境遇の相手をネット上で探して互いの存在を認知しあうなど孤軍奮闘するという話を構想していました。


 しかし、これはというパンチの利いたオチが思いつかなかったので断念しました。


 また「傍観罪」は何もしないで見ていることが罪に問われたらどうなるかという発想でタイトルまでは考えたのですが、調べてみたところ、実際に殺人などを何もせず見ていた場合ほう助行為などに当たるそうで、現実にそういう考え方の罪があるらしいと知って少し話を作りづらくなりました。また、昔同じ発想の漫画があったことを思い出してしまい、結局没にすることにしました。


 もしこれをお読みの方で「自分ならこんな免許あるいは法律、保険、税金、罪を題材にする」というのがあったらお話を聞いてみたいなという気もします。


 以上、不揃いでへんてこな物語群だったかもしませんが、貴方がこのお話を読むことで、ほんの一時でも楽しんでもらえたならこれに勝る喜びはありません。


 また、いずれ別の物語を掲載できればと考えておりますので、その時もお付き合いいただけたら嬉しく思います。


 それでは、さようなら。どうかお元気で。

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世界はルールが支配する 雪世 明楽 @JIN-H

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