第2話 脱出


 地球人類が異星人の訪問を受けたときのように、転機はいつだって唐突だった。


『総員起こし!総員起こーし!現在本港は味方より攻撃を受けている!保安要員は配置に着け!候補生はシェルターへ急げ!繰り返す!』


 軍港を揺さぶる振動と鳴り響くアラートに、机に突っ伏して寝落ちしていた脳がたたき起こされ瞬時に覚醒する。ベッドに寝ていなかったので体のあちこちが痛いが、そんなことは放送の内容できれいにふっとばされている。

 警報、襲撃、保安要員、シェルター。言葉の断片が脳内のミキサーにかけられ、少なくとも自室にこもっている場合ではないことを理解し、いまだに横のベッドで寝息を立てているアルジムの腹――キノコで言えば柄の部分――に蹴りを叩き込む。


「うぼっほぉ!ななななななんです!?」

「起きろ馬鹿、敵襲だ。規模は不明だが、軍港が振動していることと保安要員が駆り出されていることを考えると、着上陸戦食らってるみたいだな。シェルターへ行くぞ」

「は?着上陸?要塞砲と防御ミサイル群は何やってんですか?」


 言い争いながらも、そこは軍人。即座に覚醒したアルジムとともに赤い非常照明が明滅する通路をシェルターへと走る。


「なんでも味方艦隊から攻撃食らってるみたいだ。自動防御機構が反応しなかったんじゃないのか?あれはIFFに反応しない艦を自動的に叩くシステムだからな」

「必中距離まで近づいて、せーのでFCSやらレーダーをドカンですか。こいつは完全に無力化されたと考えた方がいいですね。そういえば、アナウンスはないんですか?警報は聞こえてきますけど…」

「………」


 走りながら無言で上を見上げる。確かに、警報は喧しいほど鳴り響いているが先ほどまでがなり立てていたアナウンスは聞こえない。館内放送施設は軍港指揮所の中にある。どう考えても状況は最悪の谷底へ転がり落ちていっているようだ。


「司令部が落ちたか」

「兵を殺す前にまずは頭をつぶして指揮系統を殺せ、あきれるほど有効な戦術ですね」

「感心している場合か、指揮系統をつぶした後に何が来るかぐらいわかるだろう?」

「そりゃもちろん。混乱した兵隊を実力でぶち殺しにくるに決まっているでしょう?」

「行儀よくぶち殺されたくはないな」

「じゃあ、武器がいりますね」


 走りながら顔を見合わせ、曲がり角をシェルターとは逆の方向に曲がる。ややあって見えてきたのは厳重なロックがかかった分厚い扉。横のコンソールには”LOCKED”と赤い文字が明滅している。


「いや、普通開かないでしょ?」

「非常事態は非常事態なりのルールがあるもんだ」


 表示を無視してコンソールについているスリットへ首にぶら下げていたIDカードを通すのではなく、画面へと叩きつける。直後、ポーンと軽い音とともに施錠が外れる軽い音が響いた。

 唖然とするアルジムをよそにコンソールを操作してドアを開けると、中にはずらりと荷電粒子PDWが並んでいた。手近な2丁と予備エネルギーパックを数個、拳銃型ブラスターを選び取り、ドアを閉める。


「ハルトマン教官も言っていただろう?目に映るものが真実とは限らないってな。だれも、士官候補生のカードを画面に叩きつけてカギを開けようなんて思わないし、そんなシステムになってると発想すらしない」


 縦長の直方体に銃把が付いただけのシンプルなPDW――いつか、授業で出たG11とかいうライフルによく似ている――の一丁をアルジムに渡す。銀河でも多数派の、手と指をもつ種族の体格に合わせて作られたものであった。触手を持つ彼らには扱いづらい様だが、数本の触手を使って器用にマガジンを装填し、安全装置を外す。


「そういえば、ハルトマン教官は情報畑も歩いてましたっけ。で、武器はとりましたが、まさか迎撃するとか言いませんよね」

「ふん、自慢じゃないが僕らの射撃の成績は?」

「私が中の中、あなたが下の下です。…ほんとに自慢じゃないですね」

「心外な、下の中ぐらいはある。…まあいい、そういうことだ、銃なんぞお守り変わり。シェルターまで行って適当に仲間を開放して乗員確保。しかる後に適当な艦かっぱらって逃げるぞ」

「は?」


 何言ってんだこの人類。と言いたげな菌類の視線を背中に受けながら通路を進む。非常時とはいえ少尉候補生が軍の艦を強奪して逃げるなど下手をしなくても軍法会議ものだ。


「アナウンスがなくてアラートばかり鳴り響いてる。その割には隔壁が下りていない。軍港の指揮所は制圧されていると考えた方がいいだろう。それに連邦艦隊の法にも明記されているぞ、非常時において司令部と通信がとれない場合、その中で最も階級が高く先任のものが部隊の意思決定を図るとな」

「まだ少尉候補生なんですがそれは」

「僕も貴様も、連邦艦隊じゃ少尉候補生ってだけで自分の国の軍では階級持ってただろ。僕はシリウス星系共和国宇宙軍中尉、貴様はラクブニル自治州宇宙軍少尉だったな?」

「理屈はわからんでもないですが…」

「何なら銃口向けといてやろうか?」

「結構ですよ。この状況じゃ、シェルターにこもっててもジリ貧になるだけですからね。何もせずに降伏も癪ですし、毒食らわば皿まで、皿まで食ったらテーブルを蹴倒して、ついでにコックに頭突きです」

「それはたのもしい、なっ!」


 曲がり角を曲がる直前に立ち止まり、銃口だけをだしてフルオートで連射。銃口から矢継ぎ早に放たれる荷電粒子ビームの光が、赤く染め上げられた通路を断続的に漂白し、続いて何かがショートし崩れるような音が響く。エネルギーの3分の1ほどをたっぷりばらまいた後、恐る恐る通路の先を除いてみると、躯体のあちこちに荷電粒子による弾痕を穿たれ、都市迷彩の装甲板を黒焦げにしたドロイド兵が転がっている。


「いいんですか?これ連邦のドロイド兵ですよ?」

「味方なら角待ちしてるわけないだろう。こちらの声を聴いてコンタクトをとってくるはずだ」


 残骸を蹴飛ばして道を急ぐ、軍港に伝わっていた振動はすでに無くなっている。これは本格的に不味いかもしれない。


「味方撃ちしてるらしいですから混乱しているのでは?」

「混乱したドロイド兵ほど邪魔なものはいない。見敵必殺サーチ&デストロイ万歳」

「正しい判断だ」


 後ろから掛けられた声に一斉に振り向いて銃を構えるが、それよりも早く接近され、銃身の下を”鋏”で挟まれ強制的に上を向かされる。銃を無力化されたことに焦るが、目の前にあったのは見覚えのある顔だった。しかし、その顔にあったのはいつもの仏頂面ではなく、どこかホッとしたような、うれしそうな顔だ。


「馬鹿よく見ろ、俺だ。良く生き残った。ルックナー、アルジム。よく俺の言ったことを覚えていたな」

「教官の指導の賜物ですよ」

「それを土壇場で思い出せたのは貴様らの成果だ」


 銃から手を放し、ぽんと満足げに肩をたたかれる。この鬼教官もこんな顔をするのかと思いかけた直後、教官の顔はいつもの仏頂面に代わっていた。


「手短に説明する。ついてこい」


 先頭から教官、シン、アルジムの順で続く。教官の手――ルズィル人は鋏のような第1脚のすぐ下に人の手に比較的近い第2脚がある――には使い込まれたブラスターが握られていた。


「襲撃は味方なのですか?」

「ああ、そうだ。襲撃してきたのは連邦加盟国アタナイ中央評議会艦隊の巡航艦1隻、駆逐艦4隻、コルベット6隻、強襲揚陸艦1隻」

「中央評議会?まさか、”協約”に寝返ったのですか?」


 アタナイ中央評議会は、”連邦”と小競り合いを続けている別の星間国家連合組織である”協約”との境に位置する国だ。どちらかといえば精神主義的な考え方をする種族であり、様々な国家の寄り合い所帯に近いが物質主義に傾き始めている連邦よりも、狂信的な精神主義を掲げる協約に魅力を感じていると最近の噂だった。


「いいや、アタナイ評議会だけじゃない。ラーチャズ、シキル、ダーリヴォ、ロンタールが反旗を翻した」

「おおう、主要6大国のうち半分が反旗翻したとか、連邦詰んでません?」

「驚くのはまだ早い、この反乱の首謀者はシリウス星系共和国だ。奴らが盟主となりほかの国をまとめて銀河連合帝国を標榜した」

「シリウスが!?」


 教官の口から紡がれた言葉に思わず手に持った銃をとり落としそうになった。確かに、シリウス星系共和国は連邦によって主権を回復し目覚ましい発展を遂げ、今では先進国として数えられる。しかし、それでも国力は連邦を形成する主要6大国には決して届かない。アタナイ評議会やラーチャズ覇権国ならばまだわかるが、シキル皇国、ダーリヴォ連邦、ロンタール星系委員会を御すなど夢のまた夢だ。


「ああ、そうか。貴様は…まあ、どうでもいいか」

「いや、あの、一応自分の祖国なのですが」

「じゃあなんだ、貴様は俺たちを今ここで撃ち殺して合流するつもりか?」

「そんなことは!」

「それが答えだ」


 思わず下を向きそうになっていた顔を上げると、肩越しにこちらを見る教官の顔があった。そこには、先ほどの満足げな笑みが浮かんでいる。


「誰がなんと言おうと、貴様は俺の愛する連邦艦隊の一員だ。”自分の祖国が連邦裏切った?それがどうした!ぶん殴って校正してやる”と言い切るぐらいの気概を見せろ。忘れるなよ、貴様が迷えば死ぬのは貴様だけではない。貴様の部下、家族、艦、すべて失う。だからビームの雨もミサイルの嵐も全部笑い飛ばして進め。貴様にはその力がある」


「まだまだひよっこだがな」と肩をすくめて教官の視線は再び前へと向いた。気が付けば、人知れず湧き出ていた不安や迷いはきれいに洗い流され、純粋な戦意が沸き上がっている。

 人を引き付けるカリスマ、それはたとえ生まれた星が異なっても関係ないらしい。


「さあ、時間は少ない。奴らの本隊が来る前にできる限りの候補生を連れて逃げるぞ。このままだとどうせ奴らに拿捕されるか破壊される艦だ、かっぱらったところで構うかよ」


 この教師にしてこの教え子あり。とアルジムがつぶやくが、それは鳴り響く警報の中に飲み込まれていった。





 たどり着いたシェルターの隔壁をこじ開けた先にあったのは、これまた、見知ったトカゲのような顔だった。


「シン!シンじゃねぇか!」

「ロンロ!無事だったか!何人いる?!負傷者は」

「ここには26人だ、負傷者はいねぇ。一体何があった?味方撃ちってどういうことだよ。てか、なんで銃持ってんだ?」


 シンが口を開きかけたその時、練り響いていた警報がピタリと止み。非常灯が元の白い通常灯に切り替わる。白い光を反射する壁に目をしばたかせた後、それまで沈黙を守っていたスピーカーがその役目を奪い去った。


『こちらは、銀河連合帝国である。エバーマクラル軍港は陥落した、すでに諸君らは我が艦隊の包囲下に置かれている。速やかに投降せよ。繰り返す』


「だとよ」とロンロに目を向けると、彼は苦虫をダース単位でかみつぶしたような顔をしている。おそらく、自分も同じような顔をしているのだろう。


「OK、状況は理解した。まさかとは思うが、教官がいるとはいえPDW2丁と拳銃で軍港を奪還するとかいうなよ?」

「今日はそればっかだな。…まあいい、これから軍港へ行って適当な艦かっぱらって逃げる。ちょっと付き合え」

「さっき包囲下に置いたとか言ってたが」


「はったりだ」と忌々し気に教官が吐き捨てる。教官の話では軍港に接近したのは巡航艦1隻、駆逐艦4隻、コルベット6隻。武装が少ないとはいえ、3次元機動が可能な宇宙戦闘艦の行く手をふさぐには、発進直後を集中砲火で沈めてしまうしか手がないだろう。そして、ここは軍港というだけあり桟橋もドックも無数にあり、発進するまで装甲シャッターが下ろされている。


「奴らは真っ先に索敵装置をつぶし、強襲揚陸艦で司令部を制圧。コントロールをのっとって装甲シャッターを下ろし外を見れなくした。こんな状態で艦隊に包囲されているといえば、しょぼい艦隊でも港の封鎖は可能だ」


 総勢29人になった士官候補生を率いて次のシェルターを目指す。大所帯になったが武装しているのは3人であるため、襲撃を受ければひとたまりもない。しかし、火器を持つ護衛が集団の前後を固めているためパニックには至っていない。

 次のシェルターの手前の角を曲がる直前、先頭を進んでいたハルトマンが拳を作った手を挙げ、意味を理解した全員が一斉に止まる。耳を澄ませば、ガチャガチャと硬質な音が通路に反響しているのが角の先から近づいてきている。

 状況を確認しようとシンが教官のそばに近寄るのと、シェルターの扉が開く音が同時に響く。


「シン、3つ数えたら飛び出せ、一撃で決める。敵は3体。シェルター側は俺がやる。反対側を潰せ」

「了解」


 1,2,3とカウントし、一息に角から身を乗り出す。シェルターの手前に固まっていたのは都市迷彩の連邦軍ドロイド兵。不整地でも走破可能な6脚の脚が横倒しになった長球につながっており、そこから人型の上半身が生え、マニピュレーターと機関砲を取り付けた腕が1対ずつ生えている。

 昔読んだ本の中に出てきた妖怪、あれは、何て名前だったか。そうだ、アラクネだ。もうそれにしか見えんな。

 そんなことを考えつつ、動力源が詰まっている腹部めがけて引き金を引き絞る。閃光と反動軽減装置ですら殺しきれなかった荷電粒子の反動が手に伝わり、無数の光条がドロイド兵を貫き沈黙させた。


「撃ち過ぎだ馬鹿野郎、誰がフルオートで撃てといった」


 シェルター側にいた2体をブラスターの2撃で仕留めた教官の苦言が耳に痛い。やっぱり自分に射撃の才能はないようだ。




 今回救出できたのは31人、今までの分を合わせれば全候補生のうち10分の1にも満たないが、それでも彼らの行動により解放された成果。しかし、その成果の拡大は中断を余儀なくされる。


「さすがに気づかれたか」

「いやはや、隔壁閉められて気圧下げられないだけましでしょう」


 一つ舌打ちをしながら曲がり角を盾にブラスターで応戦する教官とアルジムがぼやく。2つ目のシェルターを開放した直後、増援として現れたのはドロイド兵の1個小隊。幸いにも片方の通路から現れたため、挟撃という最悪の事態は避けられた。しかし奇襲ということもあり、曲がり角の向こうへ退却する前に数人の候補生が犠牲になってしまう。無機質な廊下には数種類の血液が広がり、ドロイドの残骸とともに物言わぬ躯が転がっていた。


「エネルギーパックだって無限ではないですよ。それにロンロが首尾よく抜け道を見つけたとしても、トラップで足止めしないとどこかで捕まりますね」


「それは心配いらん、先に行け」と何でもないことのように吐き捨て、空になったブラスターのエネルギーパックを交換する教官に、二人は苦い顔をする。


「教官、それは」

「おいこら、どうして俺が死ぬ前提の顔してやがる」


 口ごもったアルジムに、呆れたようなハルトマンの声が届く。


「どいつもこいつも、50過ぎのおっさんに追い付かれる鈍足と射撃下手ときた。俺が残らなけりゃ、それこそ犠牲前提の作戦だ。適当にあしらって追い付くさ。わかったらさっさと持ってる武器置いて、港へ行け」

「いや、でも……」

「解りました、提督席は開けておきます」

「シン!?」


 詭弁、それこそ子供にも解る嘘。常識的に考えれば、残った者が犠牲になることは目に見えている。

 なのに、驚くほど簡単に教官の言葉に頷くシンに思わず振り替えるが、アルジムの声帯にまで登ってきた抗議の声は霧散してしまう。

 歯を食い縛り、理不尽な現実に耐えようとしている親友の思いを、自分の我儘で踏み荒らすことはできなかった。対して、教え子の決意を汲み取った教官はニヤリと笑みを浮かべて見せる。


「はっ、万年大尉が提督席か。良く磨いておけよ?」


 手にしていた荷電粒子PDWを手の届くところに置き、残っていたエネルギーパックも全て下ろして身軽になる。


「シン、アルジム。一つ言い忘れていた、いや教え忘れていた事がある」


 踵を返そうとした二人は、自然とその言葉に背筋が伸びる気がした。そして直観的に、これが鬼教官との最後の会話だと悟る。


「例え最悪に叩き落とされても、常に、貪欲に最善を求めろ。運命なんぞ宇宙鯨にでも食わせとけ。万一迷ったときは意志の羅針盤に従えばいい、そいつはめったに壊れんし、宇宙一信頼できる。わかったな?」


 はい。とか細い声が荷電粒子の白条に照らされる背中にかけられ、ややあって二人分の足音が離れていく。


「ったく、最後まで手のかかる奴等だ」


 空になったブラスターを放り投げ、直ぐ側に置かれていたPDWを手に取る。トリガーを断続的にひいてバースト射撃、一体沈黙。

 即座に身を隠すと、3倍ほどの荷電粒子の発光が廊下を抉り、オゾンの臭いが嗅覚器官を刺激した。

 あいつらは大丈夫だろうか?いや、大丈夫だろう。異端、3バカと呼ばれちゃいたが概して戦場ではああいった奇人変人が英雄になることもある。そんな奴は役立たずな神や天使は助けてくれないが、性悪で気まぐれな悪魔なら手を貸してくれる。

 最後のエネルギーパックを装填する。これで、残っているのはこの銃だけ。持って3分といったところ。


「はっ、馬鹿馬鹿しい」


 あえて笑みを浮かべ、先程浮かんだ予想を弾き飛ばす。

 何が3分だ、最悪なのに次善の策を持ってきてどうする?5分だ、5分持たせて見せようじゃないか。だから……



「負けるなよ、バカども」






 破壊されたダクトを這いずって抜けた先は、駆逐艦が入渠したドックの一角だった。整備したて、新品同然のサリアン級駆逐艦トラウゼンがドックの光を黒い艦体に鈍く反射させている。その隣のコルベットへと続く桟橋に、ロンロの姿があった。


「おい!こっちだ急げ!」

「レイアブク級か……出港準備は出来てるのか?」

「コルベットでも、50人位なら楽にのれる。準備なら出来てる。こいつは明日出港する予定だったからな、しかも運良く無傷と来てる。早く乗れよ、艇長」

「艇長だって?」


 アルジムの言葉に、愕然とする自分がいた。










 エバーワクマル軍港D1ドックに下ろされたシャッターが、海側から膨れ上がるように爆破され、爆煙を引き裂いて黒いコルベットが宇宙空間へと飛び出す。

 その瞬間、単横陣で待ち構えていた駆逐艦2隻――ダミア、ウォルトン――からオレンジ色のレーザーが発射され、コルベットのエネルギーシールドをすり抜け装甲に突き立った。莫大な熱量を一点に受けた部分の装甲が瞬時に蒸発し船体を守るが、一本のレーザーが装甲を貫通し内部構造を穿つ。

 ダメージコントロールシステムが瞬時に作動し、焼け焦げた区画を閉鎖するが。その直後、第2射が着弾した。

 初擊で傷ついた装甲に駆逐艦の艦載レーザーは防げない。コルベットに直撃したレーザーは船体を構成する鋼材を蒸発、溶断させて行き、遂に反応炉と魚雷格納庫に到達した熱の槍は小癪な小型艇に止めを刺した。

 火球が膨れ上がり、コルベットだった無数の破片が四方八方へと飛び散って行く。脱出艇も確認できない。

 駆逐艦ダミアの艦長が旗艦へと作戦成功を連絡しようとしたとき、それは起こった。

 コルベットが飛び出したドックの隣、D2とペイントされたシャッターが吹き飛んだかと思うと、夥しい数の小型ミサイルが飛び出し、一目散に突っ込んでくる。


「艦長!分裂弾頭誘導弾スォーム・ミサイルです!」

「迎撃開始!」


 艦に装備された6基の40mm連装対空機関砲が曳光弾を吐き出し初めた瞬間、先程のコルベットと同じように爆煙を引き裂き、一隻の艦が進宙する。

 艦長が反射的に発した警告に帰ってきたのは乗組員の声ではなく、直撃弾による振動だった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る