第六話「ウィズイン・ユー・ウィズアウト・ユー」

「私を悪魔と勘違いしていないか? 私はみんなの守護神デーモン様である」



 低く唸るベースの鳴るなか三人でドンパン、ジャンジャカ、ポロポロリとバンド形式で

グルーヴィーに録音された『十八』は仮題曲の域を出て完成形となりウェブサイトに載せ

充分な反響を得ると瞬く間にチェリー・ガイの名を世に知らしめる迄になって消えた筈の彼の両親の耳にも届いた。コメントさえしないものの彼の投稿された楽曲の概要欄にある


『キーボード&シンセサイザー、チェリー・ガイ

 ドラムス、ファッキン・ファッカー

 ギター、レインピスス・チャイルド

 プロデュース、バイ……ファッション・ファッキン・フィクション・ファミリーズ!

 クソやばい三人が織りなすインディーズ・ポスト・インストゥルメンタル・バンドは

 全米、いやいや、全世界の人間たちを音楽によってヒューマニティの警鐘を轟かせる

 現代音楽とロック&ロールをジャジーにエレクトロニックな集大成の今回の楽曲名は

 バンド名のエフ・エフ・エフ・エフ! 何故かは聴いて中指立てファックと踊れ!』


絶対に売れないというか売ってはいけないエフ・ワード連発のコレを見て大満足だった。



 しかし全世界と迄はいかないがエフ・ワードがタブーという風潮に異議を唱える集団も彼らに影響されてか世の中の差別問題から出たタブーの存在がタブーだという風潮からか物議を醸し出しソコから派生し喫煙の害は飲酒より少ないのでは? みたいに始まって、


『白、黒、黄色も居ればヒスパニックや古くから続いている様々な民族を二十一世紀にもなって肌色と血筋だけで固定観念的かつ脊髄反射的の差別は流石に頭が足りていない!』


『性的、暴力、臭い等の様々なハラスメントやイジメをするもの/されるものは不十分な教育を受けざるを得なかった被害者であるから変わるべきは大人の私たちではないか?』


『新しいものが生まれないのなら紀元前の発見の様に〇を一に変える原点回帰しかない』


『人類に未だ解明されて所があるのなら自殺志願者に人体実験を再開してみても……』等

段々ばらばらとエスカレートしてゆく彼らの音楽シーンに於いてでの話が一考の価値ありとインターネットを通してテレビから人伝の噂が人々の思考回路を揺らし、賛成と反対の声が飛び交って戸惑う三人は震えながら知らんぷりし、爆弾を仕掛け録音して配信するも



「どうしよう! 俺の、俺たちの目的はこんなはずじゃあ!」

「ハッキングとかで住所がバレて殺されてもおかしくない!」


玄関に監視カメラを置きカーテンを閉め物音も立てられない生活を強いられている三人はサングラスを掛け深く帽子を被り職場へ行き、終われば曲を書く彼とスタジオで落ち合い店主には大量の口止め料を払わせられる一触即発の状況にビビる男二人を彼女は宥める。



「私たちは何処のレーベルに属しているワケじゃないアマチュアなんだから引っ越そう?

こんなに曲も名も売れたポールの夢は叶ったワケだし、公務員のファッカーにはちょっと難しい話だけれど私は、こんな誰も笑えない生活は嫌だよー。だからバンドは一時解散!

……だってポールはいつでも曲を書けるし、私たちは家族なんだから。でもその前に……

お母さんの所へ行かせて欲しい。お別れを言うワケじゃない、新しく羽ばたく為にだよ」



 行方をくらます為に作曲者であるチェリーにしばしウェブサイトの更新を止めさせて、公務員であるファッカーは自ら課長補佐の席を退いて、レインは言わずもがなカフェさえ有るのなら出来るバリスタであるので、三人の総意と決意の許、彼女の母オリビアの墓で神を信じられぬ者と彼女を神と信じている者と母を信じ続けている者とが黙祷を捧げる。


「……雨が降ってきたな」

「まるでレインのママが応えているかのようだ」

「そうだね、車に戻ろっか」



 借りた軽トラの荷台には思い出の代物や使える家電、そして数々の楽器とソレを繋げる三人の総てを載せたモノたちにブルーシートを掛け十余年間お世話になったマンションを後にし夜逃げする。彼女にとっては三度目の引っ越しであるがカーラジオで隣の男二人とセッションした曲を流して大爆笑しながらの何の後ろめたさも苦しみも無い引っ越しだ。



(お母さん、またいつか! 生命には必ず死が訪れるけれど、それは悲しい事じゃなくて新しい生命を生み出せられる幸せだよね! 私は野郎二人の間で最高に御機嫌だよ!)



「おいおいレイン、泣くなよ。俺も泣いちまうだろ!」

「なにさ嬉し涙だよ。ポールこそ何で泣いてるのさ!」

「良い案があるぜ、俺たちがドライブする時の歌は!」


『ファッキュー、フッフッフゥ!』シーロー・グリーンのファック・ユーを三人で歌うと湿った雰囲気がブチ壊れて大爆笑の渦がお似合いの三人は、いつまでもこうなのだろう。

『見ちまったんだアイツが俺の惚れている娘とドライブしてやがるのを。ファッキュー!

 俺の稼ぎじゃあ満足いかないってか畜生が。ファッキュー、あの娘にもファッキュー!

 ……という事は俺がもっとカネを持って居りゃあ今も一緒の筈だったのに……ってか?

 ハハッ、そんなのはクソ野郎のやる事だ、クソ野郎のたわ言。俺の胸中は今でも痛んで

 やがるがな、それでもこうやって幸運を祈ってやるぜ。ファッキュー!』



 あなたがあたな自身の向こう側を見ればきっと気付ける筈だ。心の平和は、ソコには在るんだ。みんな一つだと気付く事が出来る様な時が来る。そして生命はあなたの内側で、外側にさえ移ろい流れてゆけるのだ。

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ファッション・ファッキン・フィクション・ファミリーズ(FFFF) TamoreS @tamore

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