第5話
窓の外では依然として、ディオとイヌワシの攻防が繰り広げられている。
「離しやがれ!てめぇ~、鳥の分際で、ふざけんなよ!」
「ディオ!怒鳴っても無駄ですよ!」
「コントロールされてるんだ!お前だけでも飛び降りろ!」
シフォーとベネットが下から口々に声をかけている。
「出来るわけないだろ!これは・・・これは俺の生きている証なんだから!」
「何言って・・・!」
シフォーがベネットを制止する。
「俺の命なんだから!」
叫んだ弾みにディオの手が柄にかかり、彼は無意識に剣を鞘から抜き放つ。
「盗られてたまるかー!」
闇雲に振り回した剣が足を掠めた途端、イヌワシはポロリと剣を放した。
「うおぉぉぉ~!」
今度はディオは、剣と鞘を両手に持ったまま、まっ逆さまに落ちて行く。
「ちぃっ!」
辛うじてベネットが間に合い、ディオは地面に激突することだけは避けられたが、体中打ち付けてあまりの痛みにのたうちまわる。
「気をつけろ!来るぞ!」
巻き添えで自らも倒れこんだままベネットは叫び、その声にディオが顔を上げると、すでにイヌワシが彼の目前に迫っていた。
「・・・・!」
剣を地面に刺して、渾身の力を振り絞って立ち上がろうとしたディオの前に、見慣れた白いローブ姿が現れたかと思うと、それが一瞬にして鮮血で赤く染まる。
「シフォー!」
イヌワシの足の爪が、彼の胸に深々と刺さったのだ。イヌワシは羽ばたいてシフォーから離れる。
「大丈夫・・・」
彼ははずみでがっくりと膝をついて、それでも背中にディオを庇っていた。
「急所は外れています。・・・後は貴方が」
「シフォー・・・」
微かに微笑を浮かべるシフォーの唇の端から、赤い筋が滴った。ディオがそれを拭おうと手を伸ばすと、シフォーは声もあげず、音もたてず、静かに地面に倒れ伏す。
「シフォー!」
ベネットが転げながら二人の傍に駆け込む。さっきディオを受け止めた弾みで、膝を殴打したらしい、立つことが出来ないようだった。
「こっちは任せろ!あんたはあれを!」
三人の目前にイヌワシが翼を広げて、今にも飛びかかろうとしていた。その爪の先にはシフォーの身体から流れ出た血がこびり付いている。
「貴様ーっ!」
ディオの目が鋭くイヌワシを捕らえた。両手には彼の三日月形の剣を握りしめている。
「許さんっ!」
彼の突き出した剣がイヌワシの身体を貫くと、その切り口から光が溢れ出し、一瞬のうちにイヌワシの身体は掻き消えてしまった。
「な、何だ?」
ディオはあっけにとられて呆然と自分の手と剣を見比べている。
「その剣は・・・『斬魔刀』というのですよ」
シフォーがベネットに助け起こされている。
「しゃべるな、傷に障るぞ」
「・・・構わん」
咳き込みながらシフォーは言葉を続ける。
「・・・その剣はあなたの父上であり勇敢な剣士であったギルモアの物。そして、あなたの母は・・・」
ディオは固唾を呑んで次の言葉を待った。
「シフォー。後はわしから話そう」
威厳をもった声がして、ディオは後ろを振り返った。
そして、思いも寄らぬ人物の登場に、彼は目を丸くするのだった。
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