第6話
その頃、王宮の階段を慌てて駆け下りていく人影があった。
「なんということだ!斬魔刀がここに?あれを私に取り上げろというのか?・・・いやいや、私は国王になぞなりたくない。私の実力を国王が認めてくれさえすればいいのだ。・・・しかし、今日中に片が付くというのは?あやつめ、何を考えているのだ・・・」
『ぶつぶつと独り言か?』
急に声が聞こえて大臣はきょろきょろと当たりを見回す。
『ここだよ。お前の目の前』
目の前の壁に出来た自分の影が手招きするのに気付いた大臣は、顔色を青くして今にも倒れそうになっていた。
『人を介する時間がない。さっきお前も見ただろう。斬魔刀を』
「あっ、・・・あれを奪おうというのか?」
『そうだ。生憎と私の身体はギルモアに粉々にされて未だに回復していない。お前の身体を借りることにする』
大臣は一瞬身体を硬直させるとばったりと倒れた。そして、すぐに起き上がる。
「年寄りの身体は硬くていけないな」
服の埃をさっと払うと、大臣は何食わぬ顔で王宮を出て行こうとした。
「お館様。お帰りですか?」
声をかけられて、大臣はにこやかに振り返った。
「いや、帰る前に寄るところがある。王族お抱えだった魔術師の家系の女性・・・なんていったかな?」
「エアリア様ですか?」
「そう。彼女の屋敷に寄ってくれ。急用だ」
「かしこまりました。」
従者は疑うことなく大臣を馬車に乗せて出発した。
王宮の一室で秘密裏にシフォーとベネットの手当てが行われた。ベネットは足に添え木を付けて、取りあえず歩けるようにはなったが、シフォーはしばらく絶対安静を言い渡されてしまった。
ディオはシフォーの寝かされているベッドの縁に座り、彼の手を握りしめている。
シフォーは痛み止めの薬のせいか、虚ろな目で天井を見ていた。
この血の繋がらない兄が、傷ついた姿など今迄見た事もなかった。いつも、何事も要領よく切り抜けて、擦り傷ひとつ作らない人なのだと思っていた。
でも、それは彼が細心の注意を払って考え抜いて行動していたから出来たこと。
今回のような非常事態に、まして自分以外の者の危機を救うなんて、簡単に出来るものではないということを、ディオは知った。
それなのに兄は、自分を守ろうとしてくれたのだ。
自らが野獣の爪に引き裂かれようと・・・。
「勇敢な剣士の息子が聞いて呆れる・・・。目の前の人一人守ってやることも出来ないなんて・・・」
ベネットが、うなだれてしまったディオの肩に手をかける。
「あんたは、彼の代わりにあのイヌワシを倒せたじゃないか」
ディオは伏せていた顔を上げた。
「あたしたちでさえ手の下しようがなかった野獣を、あんたは倒せた。あんたにはそういう力が宿っているんだよ。他の誰にも出来ないことだ。それはギルモアの息子として、誇りに思っていいことじゃないか?」
手を握り返されて、ディオはシフォーの目が笑っているのを見た。
「それに、あんたの無鉄砲なところ、気に入ったよ。あたしの部下に欲しいところだ」
今度は苦笑いを浮かべたシフォーを見て、ベネットもいつもの調子が出てきたようである。
そうして、ディオの生い立ちが語られることになったのは、その直後だった。
謁見の間は、シフォーの寝かされている王宮の一室。そこに、年老いた老人が訪れてきた。
「国王陛下!」
起立したベネットとディオに、彼は手振りで座るように指示すると、自分も近くの椅子に座った。
ディオは、まじまじと彼を見つめる。何よりこんなに近くで国王を見たことがなかったのである。
白髪交じりの黒い髪と黒い瞳で、彼はディオに向かい合った。
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