シリーズで読みたい現代ドラマ

ミドル・クライシスは現代ドラマの金字塔にして、「外さない」題材の代名詞といえるだろう。人生の中年期に差し掛かった主人公が自らの半生を振り返り、喪ったもの、あるいは取りこぼしてしまったものを求める物語は誰の人生にも等しく訪れる物であり、リアリティ――それも幾分かの切迫感を伴うそれ――を多分に含む。この小説もまた、妻や娘から「つまらない人間」と断じられてしまった男の物語である。

しかしながらこの物語は決して陳腐でも、ありきたりでもない。

「異世界転生」という具材を用いた新奇さ以上に、「あくまで善意と好意から主人公をつまらないという家族」や、「決して主人公の人生や職業に踏入らない仲間」そして物語の中心にあるのは、題材とは真逆の「苦しむ若者の心」である。

「中年の危機と異世界転生」という安易な切り口に見せかけながら、その実にある「いい大人の心意気」は、おもわず心が熱くなることうけあいだ。

完結作品である本作だが、是非にシリーズでサークルメンバーの日々を追いたくなってしまう。非常に良い小説でした。

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