第9話 模擬戦 前編
森林を駆ける2人のエルフ。時折木々に飛んで周りを見回したり、地面の足跡を捜したりするが、人間の気配は一切無い。まるで幽霊にでもなったかの様。不気味な夜の森林は、私達の味方の筈だけど、今日はなんだか敵になってるみたい。
「もう!面倒だわ!」
中々見つからないから、リリが苛立ち始めた。この状況を招いたのはアナタじゃない...と思ったが、口は閉ざしておく。言ったらまたややこしくなるからね。
それにしても痕跡が無い。そういえば森林に溶け込む様な服を着てたなと、思っていた矢先の出来事だ。人間と思しき足跡と草を掻き分けた跡が残っていた。
「やっと見つけたわ。逃がさないんだから!」
「ちょっと、リリ!1人で行ったら危ないわ」
人間なんか恐るに足らないと言い残し、リリは木々の間を走り抜ける。自分より素早いリリは、あっという間に暗闇に消えてしまった。単独行動はリスクがあるが、まあ大丈夫でしょう。リリは魔法こそ得意じゃ無いけれど、剣や格闘の腕は確かだし、1人でも人間ならねじ伏せられるだろう。
この時はまだ、私も油断していた。人間がエルフに勝てる訳がない、そう思っていた。戦いでは油断こそ命取りだというのにね...
リリと離れて数分、人間の痕跡を追い、慎重に進んで行く。大雑把なリリに変わって、私が細かく捜索しましょうか。多分あの子は大まかにしか見てないから。
「単独行動とは、呑気だな」
背後より聞き覚えのある声が聞こえ、無意識に体が跳び上がる。足音も気配も無く、幽霊のように現れた人間。彼は木の棒らしき物で、私の背部を突付くのだ。これが刃物や魔法なら、ヴァルハラ永住権を手にしていただろう。恐らく、彼もそう言いたいが為に態々姿を現しに来たのではないか。
「あら?ご機嫌いかが?」
「良くないな。無警戒な新兵の相手は、逆に疲れるんだ」
せっかく冷静に返事をしてあげたのに、新兵ですって?あからさまにな挑発なのはわかってる。だけど、私にもプライドというものがあるの。メイディーアの名は伊達ではない事を、思い知らせてあげる!
イメージするのは、天を貫く雷。魔力を右手に集中して形を整える。何度も何度も繰り返した手順は、意識せずとも身体に染み付いた動作だ。
エルフの身体能力に任せて、振り返りざまに右腕を突き出す。狙うは胸の中心、雷光を纏った腕は、矢が如く人間の胸を貫く...事は無く、虚しく空を切った。
「嘘?!」
人間が避けれるスピードで打ったつもりは無かったのに、半身で易々と躱された?!
右手から直線状に光を描く雷は、当たるはずだった目標を失って、空中に飛散。真っ暗な森を明るく照らして、雪のように無くなってしまう。
「それが魔法か。いいセンスだ、
「な、ナメるなよ!
次の魔法を撃たんと、魔力を集中させる。刹那、下腹部に強烈な衝撃、視界が揺れ、意識が一瞬お散歩した。
「あれ?何が...」
遅れてやってきた内臓からの悲鳴。それは体の中心から胃を通り抜け、食堂を通って、吐き気として脳を襲う。耐え切れずに震える両膝を地面につき、それを体外に排出する。
「身体構造は、人間とほぼ同じみたいだな」
胃が空っぽになり、出るものが無くなったところで吐き気が治った。だが、人間が私を押し倒し、太い腕が、私の細い首に押し付けられる。
「負けを認めるか、続けるか、選べ」
「認めるわけないわ...!まだ負けてない!」
押し退けようとするが、こいつ力が異常に強い。首が圧迫されるのを感じてもがくが、ビクともしない。魔法を使って...
そこまで考えた時、世界が暗転した。
「根性は合格だ。アグライア」
Δファンタジア 藤宮なるる @ghost920
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