第4話 アールヴ王国 後編
アールヴ王国首都 ワルシィ 昼 快晴
いつの時代、どんな国でも、権力闘争は存在する。これは国家運営において大変厄介で、時に権力者はこれに対処し、敗北し、また新たな権力者が現れるのだ。そしてこのアールヴ王国もまた、同じ局面に立たされていた。
現国王の『コドロス1世』またの名を『コドロス・アールヴ』は高齢であり、ツァーリ家との権力闘争をしていた時のような勇猛さは無くなっていた。コドロスに実権は既になく、この国は現在支配者が不在の状態である。
異常に広いテーブルを囲んで行われている会議は、この国の権力者が勢ぞろいしている。会議はいつものように八百長。国王や皇太子は早々と去り、王女だけが最後まで残っていた。
最後に退席した、王女『ローゼ・アールヴ』は非常に機嫌が悪かった。外で待っていた護衛の『リリ・ディオネ』を連れて、早足に自室へ戻る。
「私は何もしてないわ...」
ボソッと言った一言は会議の内容を思わせるには十分だった。
母親譲りの黒髪はエルフでは珍しく、『暗黒王女』とか『漆黒』だとか『黒壁』だとか不名誉なあだ名をつけられ、根も葉もない噂もたくさん流れている。しかも噂は兄であり、皇太子の『ジョン・アールヴ』が流したものなのだ。兄は私をこの国から排除しようとしているのだ。
もちろんジョン・アールヴが恐れているのは、妹に国王の座を奪われることである。国王コドロス1世に実権がないといえど、国王はローゼを次期国王に推しているのだ。ジョンは既に政府の権力をほぼ掌握しているが、ローゼは国民からの人気が高い。しかも軍の元帥がローゼ側に付いている人間なのだ。まだローゼは幼いが、ジョンからすれば非常にまずい。
ローゼは状況を理解するだけの天才的な洞察力と、賢さを持っている。この状況下、自分がすべきこともわかる。だが、彼女の純粋で善良な心がそれを許さないのだ。余りにも政治に向いていない心と、天才的な才能。このギャップが彼女を苦しめる。
「ローゼ様?大丈夫ですか?」
金髪碧眼の、幼い顔が心配そうに声を掛けてくれる。リリはいつも私を心配し、こうして声を掛けくれるのだ。きっと酷い顔をしていたのだろう。
「大丈夫よ。それより、昨日助けた人はどうなったのかしら?」
あまり深く考えるのは良くない。話題を切り替え、昨日助けた人間の話に移る。
「それでしたら、傷は完治したと報告がありました」
背後に急に現れたメイド服の獣人。思わず小さな悲鳴をあげてしまった。
「もう!気配を消さないでっていつも言ってるでしょ!」
「申し訳ありません。癖で」
『シルヴァ・ウルフェンス』は私のメイドをしている。緑色の髪と狼の耳は獣人である証。クールな顔つきと豊満な身体はちょっと羨ましい。いつ買い物から帰ってきたのか気づかないくらい、いつも気配がなくて、手を焼いているのだ。
「だったら少し見に行った方がいいわね。さあ、そうと決めたら行きましょう」
「一応、見舞いの品も買ってきました」
リリとシルヴァも支度は済んでいるので、シルヴァが馬車を用意するまで少し休憩することにした。ここでリリが珍しく私に意見を言ってきた。
「ローゼ様。わざわざ、人間のお見舞いなんか行かなくてもいいのでは?どうせ治ってもいつかは...」
「そうね...どうせ治ってもこの国から出て行かなければならないわね...でも、助けたからには最後まで責任を持つわ。種族は関係ないのよ」
この国はエルフの国だ。人間は生きていけない。だけど、だけど、わかってるけど、助けた。
馬車の準備が整ったので、馬車に乗りコンペットの病院に出発する。いつもより馬車が揺れる気がした。
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