哲学的かつ芸術的。画家の名前が頻繁に出てくるのも象徴的です。モネを持ってくるのがらしいなと。
形のないものの正体を作品を通して見せつけてくるような、そんな雰囲気。
とりあえず、純文学的です。テーマ・メッセージ性、色々と重たくて、ほかにはない作品だと感じました。
細かく情報量の多い描写がいいですね。現実感があります。
反対に白/モノクロームを基調とした景色が、非日常を醸し出していました。その色彩が堕ちていく雰囲気にも合っています。
白が強調されているけれど、実に色彩的でもあります。無彩色と色鮮やかな部分、夜明けと夕焼け、コントラストがついていて、対比が美しいです。
そして納得感とそうくるかが混在する結末。終わった後にはため息が漏れました。
光を見せておいて落とすところは落としてくるからこそ、よい構成だったと感じます。
カメラを趣味にしていた祐は、家族とのいさかいやこじれた人間関係のために、それを捨てた。大学生になってからは自堕落な日々を送っている。そんな折、病院で祐は美しい女性・渚月と出会う。ピアノをかつて愛し、今は絵を描き続けている彼女に祐は深い感銘を受ける。渚月への明確にできない感情を抱えつつも、祐は自堕落な己を変えたいともがき始める。
人間の光と闇をとことん描く文体が、まさしく人間ドラマだと感じました。祐は自他共に堕落していると言われていますが、渚月との出会いをきっかけに変わろうとしていく。祐だけではなく、周りの人間も当たり前ですがそれぞれの人間関係を抱えていて、そこから何かに向かって足掻いています。人間というもののあり方を考えよう、変えようとすると、生死というものも無関係ではいられません。祐をとりまく環境は複雑で困難でもありますが、彼が人との出会いを通じて何を得て、どんな答えに辿り着くのか。それを見届けたい、と願わずにはいられない小説です。
作者様のタイトルとは意味合いが違うかもしれませんが、最後まで読んだ印象としてはこのキャッチコピーが頭に浮かびました。
人生、どこかで堕落してしまった人は多いと思います。自分もそうです。現在進行系です。なので、この主人公を見ていると、まるで鏡写しの自分を見ているようで胸が苦しくなりました。
最初の方はつらいかもしれません。でも、それでも先を読んでみてください。堕落した彼があがき、苦しみ、そして最後はどこに辿り着いたのか。最後にはきっと静かな感動が待っているはずです。
そして登場人物一人一人にまたドラマがあります。彼らがどういう経験を経てどう変化していったのか。それもまた、この作品の見所のひとつなのではないかと思います。