第6話 危機的状況になると喋れるとかアツ過ぎでしょ。


 先生に目を付けられてしまい、貴尋と一言も話せないまま授業が終わってしまった。


 休憩時間が始まる中、机に筆記具を散らかしたまま呆然とする。


 もう、貴尋に気持ちを伝える手が思い付かない。


 文字も駄目。声に出そうとしても失敗。そうだ、スマホは……? 駄目だ。余り道具に頼ると、貴尋の勇気への侮辱になる。でも、何度やっても上手くいかない。


 もう諦めた方がいいだろうか? 貴尋にも迷惑かけてばっかりだし、こんなんじゃもし付き合えても、やっていける自信が無い。


 項垂うなだれていると視線を感じて、目を向ける。机を元の位置に戻していた貴尋が、心配そうに私を見ていた。


 やっぱりお前はいい奴だよ。私みたいな奴じゃ、勿体無もったいない。他の子を探した方がいいよ。


 そう伝えようとして、頭を上げた。


「……なあ」


「ヘイ貴尋!」


 遮るように、咲綾が貴尋の席に近付いて来る。


 貴尋は咲綾を見上げると、目を丸くした。


「咲綾ちゃん?」


 二人は、同じ委員会に属していて仲がいい。貴尋が名前で呼ぶ、数少ない女の子の一人だ。今や普通に貴尋と話せる咲綾が羨ましくて、つい目で追う。


「うん、おはよー。いや寒いねー今日は」


 咲綾は、前を開けたブレザーのポケットに手を入れたまま貴尋を見下ろすと、首を傾げてにこりと笑った。


「ねえ貴尋。実は私、君の一花への恋愛相談に乗ってる間に、君に恋しちゃったんだ。付き合ってくれないかな?」


「へっ?」


 貴尋はぽかんと聞き返し、私は咲綾を三度見した。


 直後に焦りと混乱に突き動かされ、椅子をひっくり返して立ち上がる。


「お、おい咲綾!」


 咲綾は貴尋を見たまま、軽く挙げた手で私を制しながら続けた。


「一花と上手くいってないみたいだし? だったら別に私でよくない? 友達だって振られたんでしょ?」


 貴尋の顔が引きる。


「いや、それは……」


「はは。つか嫌われたかもね? 今朝から一花の様子おかしいじゃん。だから嫌な事は忘れてさー……」


 咲綾はもう一方の手を抜き出し、貴尋の手を取って指を絡めた。貴尋の顔を覗き込むと、誘うように囁く。


「私じゃ嫌?」


 貴尋へ走っていた私は、咲綾の手を引っぺがした。


 自分でもよく分からないまま、友達に向けるような鋭さじゃない目で咲綾を睨む。


 今にも咲綾を殴りかねない勢いで、両手が勝手に拳を作る。


 何をそんなに怒ってて、何がそんなに気に入らないのか分からない。


「私は貴尋じゃないと嫌だから取るな」


 でも言葉が、衝動的に口を突く。


 分からないけれど、強烈に嫌なのだ。


「今日、色んな人から誕生日プレゼントを貰った。全部嬉しかったけれど、一番嬉しいのは貴尋から貰ったマフラーだけだった。お前と登校出来なくて退屈とは思ったけれど、一緒に教室に行けなくて寂しいと思ったのも貴尋だけだった。……恋とかよく分からないって言ったけれど、違う」


 黙って取られるのは絶対に嫌だ。


 ならこの気持ちは、本物なんだ。


 じゃあどれだけ失敗しても、後悔するような事だけはしちゃ駄目だ。


 それでも怖くて、意を決して貴尋を見る。


「今朝は勘違いしてごめんなさい。私は貴尋が好きだし、貴尋が誰かの恋人になるのは嫌だ。まだあの告白が有効なら、私は貴尋の恋人になりたい」


 貴尋は、目を丸くして固まっていた。


 ……やっぱり駄目だろうか? 不安がじわりと胸に湧く。


「……びっくりした。どうやって告白し直そうか、ずっと考えてたのに」


 貴尋は照れ臭そうに、頬をぽりぽり掻きながら笑った。


「お返事ありがとう。こちらこそ、宜しくお願いします」


 目を丸くしていた咲綾は、声を漏らす。


「……こーれは驚いた。まさかそこまで嫉妬深いなんて」


「そーいう事だからなァ咲綾! 分かったら貴尋に色目使うな!」


 私は上体を持ち上げる勢いで貴尋の腕を掴むと、咲綾を睨み付けた。


「いだだだ一花力がつよ」


「今回は許してやるが次は無いからな! 分かったらあっち行け!」


「はは。いや、次とか無いよ。私彼氏いるし」


「え?」


 咲綾はヘラヘラと手を振る。


「あんたが鈍臭どんくさいから煽っただけだよ。いやー朝から教室の真ん中でお熱いねえ。お幸せにー」


 我に返り、辺りを見た。それまで静かだった皆が、にやにやして私を見ている。


 カーンと体温が上がって、おかしくなりそうになって叫ぶ。


「な……。何見てんだお前らァ!!」

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熱暴走系鈍感女子VS不憫系鈍感男子~両想いになった途端意思疎通が成り立たない告白戦~ 木元宗 @go-rudennbatto

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