第5話 そもそも一花さんは絵が下手。
もうおしまいだ……。
一限目開始直後、頭を抱えて机に伏す。
緊張していたとは言え、何て事を……。許して貰える気なんてまるでしないけれど、授業が終わったら謝ろう……。
教科書を出そうと、机を漁って気付く。
教科書忘れたっ!
「どうしたの?」
何事も無かったように、貴尋が声を掛けて来た。
驚いた勢いで罪悪感を忘れ、つい普通に話してしまう。
「えっ!? いや、教科書忘れて……」
「ああ」
貴尋は納得すると、自分の席を私の席にくっつける。互いの机の境界線上に背表紙を合わせるように、自分の教科書を置くと頷いた。
「これでよし」
その光景を見ていた私は、脳内で叫ぶ。
お前いい奴だなあ!
殴って来た上に鼻にイヤホン刺してくるような奴に私物なんて貸すか普通!? 私だったら絶対しねーよ!
貴尋の聖人ぷりにグサグサ胸を刺され、凄まじい助走を付けて帰って来た罪悪感に歯が折れそうな勢いで殴られ、涙目でボロボロになりながら心の底から感謝を伝える。
「うぅ、ありがとぉ……」
「うん。一緒に見ようね」
貴尋は微笑むと、授業を聞き始めた。
駄目だ。迷惑ばかりかけてしまっている。どうお返しすれば……。いや、寧ろ今は、返事を伝えるチャンスでは!?
授業中だから大きな声で喋れないけれど、ノートに書いて見せれば確実に伝えられるぞ!
貴尋が授業を聞いている隙に、ノートを捲ってまっさらなページを用意する。見開きいっぱいに大きな文字で返事を書こうと、シャーペンを握った。
くっ緊張で手が震える……。落ち着く為に端っこに、ちょっと絵でも描いてから始めよう……。
出来た!
貴尋の肩をつついて振り向かせると、両手で持ったノートを広げて見せた。勿論ノートには見開きいっぱいに、「貴尋、私も大好き!!」の文字! 見せるページも間違えてないし、完璧だ!
貴尋はノートに目をやると、文字を読んでいるらしく暫く黙る。そして、すぐに微笑むと、先生に見つからないよう囁いた。
「うん。僕も好きだよ」
やったあ!
ノートを持ったままじっと待っていた私は、目を輝かせる。
「ほんとか!? 私……」
今朝は酷い事言ってごめん!
そう続けようとすると、貴尋の指がノートに伸びる。
何だろう? ぽかんとしていると貴尋は、ノートのある一点を指す。
私はノートを自分へ向けると、貴尋が何を指しているか確かめた。
そこにあるのは「貴尋、私も大好き!!」の言葉の下に、緊張を
それを指していたらしい貴尋は、にこにこと囁く。
「可愛いよね。ヤギ」
「ヤギじゃねーよ!!」
犬だしそもそも絵についての話をしてる訳じゃねーよ!!
「何でそうなるんだよ! 私が言いたいのはそうじゃなくて」
先生は私を睨むと、凄まじい剣幕で怒鳴る。
「
「ギャアア!?」
一回目の注意の熱量じゃないだろ!
驚いて飛び上がる私を皆が笑う中、
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