第4話 焦るとやっぱりどうしようもない。
ホームルーム直前まで咲綾に怒鳴られたから、今度は間違えない。
慌てず、正直に、自分の気持ちを伝えるんだ!
ホームルームを終え休憩時間に入ると、隣の席の貴尋へ、身を乗り出して話しかける。
「なあ! 今朝の話なんだけどな! あの……!」
貴尋は、私に気付くと振り向いた。
目が合って、言い切る前に顔が熱くなる。
ぬあっ、駄目だやっぱり緊張してきた。渡り廊下の時より距離も近いし。
「……その、あれだよ。踏切の時の、話……」
言葉も勢いが落ちてしまい、もごもごと消えて行く。
駄目だ駄目だこんなのじゃ!
思い切って立ち上がると目を伏せながら頭を下げ、勢いよく両手を合わせた。
「ごめん! 今朝は意味をよく分かってなかったんだ……! でも私、嬉しかったから……! こ、こちらこそ、宜しくお願いします! こっ、今度、デートしよう!」
ざわざわしていた教室が静まり返る。
皆に見られていると意識して、心臓が跳ね上がった。
お、思ったより視線が痛い……。いんやでも、うじうじ延ばしてもしょうがない! それに、既に告白されてるんだから、ただ返事をするなんて簡単な事じゃないか……。ハァッ!?
動揺に窒息しそうになりながら、カッと目を見開く。
もう十秒ぐらい経ってるのに、何で貴尋の奴、無言なんだ……?
真っ青になって、胃がすとんと落っこちる。
調子がいいって、怒らせた?
両手を合わせたまま、恐る恐る頭を上げる。
私の方を向いた貴尋は何やら、耳の高さまで右手を持ち上げて固まっている。右手が、何かを摘まんでいる事に気付いた。
白くて丸いそれは、ワイヤレスイヤホンの片側。
何も聞こえていなかったのだろう貴尋は、ぽかんと私の顔を凝視する。
「……?」
「うおおおおおおおおい!?」
信じられない余り目をひん剥いて両足で踏み切ると、スーパーマンみたく突き出した両の拳で貴尋の顔をぶん殴った。
顎を打ち上げられ、「ガハァッ」と声を漏らす貴尋と、貴尋の右手と耳からすっ飛んでいくワイヤレスイヤホン。
私は怒りと恥ずかしさで真っ赤になって、両手で貴尋の胸倉を引っ掴むと持ち上げた。
「
「ぐああああごめんごめんごめんごめん!」
怯えた貴尋はおろおろしながら、床に転がったイヤホンを心配そうにチラチラ見る。私よりイヤホンの方が大事だってのかこの野郎……!
「ごっ、ごめんね!? 急に一花が一気に話すから、外すタイミングが無くて……」
血走った目でガンを飛ばした。
「ハァン!?」
「何でも無いですっ!!」
完全にビビっている貴尋は殴られると思ったのか、叫びながら顔を背けて目を伏せる。
でも怯えながら、うっすら目を開けながら尋ねて来た。
「で、でも何!? どうしたの!?」
「あ!?」
「いやだからっ、何て言ってたのか全然聞こえなかったから、もう一回言って欲しいなって……」
「何って、そりゃあ……!」
「全然聞こえなかった」という言葉にカチンとしかけるも、別方向からやって来る熱に目が回る。
言うのか? もう一回? クラスの前で?
そんな、恥ずかしい事出来る訳……。いや! チャンスじゃないか次こそ鮮やかにキメろ!
こちらこそ宜しくお願いしますお付き合いしましょうこちらこそ宜しくお願いしますお付き合いしましょうこちらこそ宜しくお願いしますお付き合いしましょうこちらこそ宜しくお願いしますお付き合いすましょしょしょ
全力で言い聞かせながら貴尋の胸倉を手放し、吹っ飛んだイヤホンを拾いに行く。
引き返すと貴尋に向かい合い、言葉を放った。
「オ、
貴尋の右の鼻の穴に、ぐりっとイヤホンを押し込む。
休み時間の終わりを告げるチャイムと同時に、貴尋の悲鳴が鳴り渡った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます