#28【三国志演義】空城の計!でもなんで空っぽの城に突撃しない?【リアクタンス理論】
時は三国時代。馬謖が大ヘマをやらかしてえらいことになった第一次北伐。その敗戦処理をしていた蜀の大軍師である諸葛亮孔明はあるとき、少数の軍勢で魏の大軍に攻め込まれる憂き目にあいます。
敵は数万味方は数千。そんな大ピンチに孔明は起死回生の一手を思いつきます。部下に城を掃除するように命じ、敵から見えないところに隠れさせます。そして、自分は高台に登り、琴を弾いて敵を待ち受けます。
敵の攻め手は司馬懿仲達。孔明の永遠のライバルです。彼は空っぽの城と琴を弾く孔明を見て、即座に伏兵を察知します。部下には孔明の虚勢だと指摘されますが、司馬懿は伏兵を警戒して結局兵を引き返し、孔明は窮地を脱することができました。
これが世にいう空城の計です。
最も著名な話は三国志演義にあるものですが、戦国時代に徳川家康が行ったものなど様々なバージョンがあります。
ところで……なんで魏の軍勢は空っぽの城に入ろうとしなかったんでしょうか? いくら諸葛亮孔明が天才軍師といえど、圧倒的な兵力差は埋められないはず。伏兵を弄したところで、司馬懿の実力なら大軍で押しつぶすこともできたはずです。
その理由の一部を、心理学におけるリアクタンス理論で説明できるかもしれません。
リアクタンス理論とは何ぞや? という話に入る前に、最初の例えが壮大すぎたので、もう少し卑近な例を出しましょう。例えば、あなたが小学生くらいのとき、宿題をやろうと重い腰を上げたところで親に「宿題をやりなさい!」といわれ、途端にやる気をなくした……なんてこと、ありませんでしたか? 元々やるつもりなら親からどう言われようがやればいいのに、なんでやる気がなくなるんでしょうか。
この例と空城の計は、共通する理論―リアクタンス理論で説明することが可能です。
リアクタンス理論とは、簡単に言えば、人が「自分は自由に行動できる」という事実ないしは状況を守るために行動することを指摘した理論です。
先ほどの宿題の例で考えてみましょう。あなたは、この1日を自由に過ごすことができると信じています。つまり、宿題をやるのもやらないのも、すべてあなたの手で決定することができます。
しかしここで、親が「宿題をやりなさい!」と言ったらどうなるでしょうか。宿題をやるという行為が強制され、自分の持つ自由が制限されることとなります。このまま唯々諾々と宿題をやってしまえば、自由が制限されたままです。そこで、あなたは元々やろうと思っていたのにもかかわらず、宿題を放棄するという行動をとることで強制を否定し、再び自由な状態になろうと試みるのです。
空城の計でも同じことが言えます。明らかに攻めてくださいと言わんばかりの状況で本当に攻めたら、その行動は孔明に強制されているようなものです。それでは気に食わないので、司馬懿は攻めるという行動をやめ、軍を引き揚げさせることで自らの自由を守ったのです。
ここで重要なのは、客観的な自由よりも主観的な自由です。元々宿題をやろうと思っていたのであれば、仮にやろうと決めた後に親から強制を受けても、客観的には自由は目減りしていないはずです。宿題をやるという選択自体は、親の強制とはかかわりなく決定されたもののはずだからです。しかし、主観的にはそうは思えません。
主観的な自由が大事ですから、人は時折、自由を守るために頓珍漢な行動を起こすことすらあります。不良少年たちが、客観的に見ればどうでもいい制服改造をしたり誰も見ていない眉毛を整えたりして生活指導の教師とぶつかり合うのも、もしかしたら自由を求めてのことかもしれません。にしてはあまりにも小さな自由ですが。
孔明はその後北伐の回数を重ね、第五次北伐の最中に病没します。有名な五丈原の戦いです。それまでに彼は多くの戦いで優れた策を立案し、蜀を導いていきました。
とはいえ、その軍略には危ういものも数多くありました。空城の計だって、司馬懿が気まぐれを起こしてえいやっと攻め込んでいたらそこで終わっていました。
人の心理はあらゆるものに影響されるものですから。
【要約】
司馬懿が空っぽの城に攻め込まなかったのは、孔明にそうするように強制されていると感じ、自分の自由を取り戻そうとしたからかもしれない。宿題をやれと言われるとやりたくなくなるのも同じこと。
【元ネタ】
三国志演義:中国、明の時代に書かれた歴史小説。四代奇書の1つでもある。「げぇ、関羽!」
【参考文献】
深田博己 (1996). 心理的リアクタンス理論(1) 広島大学教育学部紀要
空想心理学読本 新橋九段 @kudan9
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